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「…はい」
誰もいない教室で、佐倉は静かに返事をした。
シンとした空間に声が響く。
溜息をつきながら、床に投げ捨てた鞄を拾って肩にかけた。
卒業証書しか入っていない部活用の薄い鞄。軽いはずなのに、何故かとても重く感じる。ずっしりとした重さは、まるで汗だくになった部活着の入った鞄を持っているときのようで、名波との思い出が蘇ってきては消えていった。涙を堪えながら、教室の戸を開ける。
「ありがとな、佐倉」
足を踏み出したところで、ふいに、名波の声が聞こえた気がした。
ぎゅっと目を閉じる。
熱い涙が頬を伝った。
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