A little more impossible

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「もう少しだけ、こうしていたいの」  甘いささやきが耳もとをくすぐり、漏れる吐息が耳たぶをじんと熱くした。  背中に、彼女のやわらかい温もりが伝わってくる。すらりと伸びた両腕が僕の胸の前で交差し、心臓が早鐘を打つ。  いいよ、と僕は答えたかった。  けれど、僕の足はガクガクと情けなく震えだし、一歩も踏みだせず、やがて冷たい夜のアスファルトの上で四つん這いをする醜態をさらした。 「無理です」 「でしょうね。このシチュエーションは無理があります。当社のレンタル彼女も推奨しておりません」  彼女は僕の背から離れると、ガチャガチャと首や肩を鳴らす。 「そうですよね」 「もう少しまともなデートプランをご希望してください」  無機質な声で諭すと、彼女は僕を軽く抱き起した。  ぐでんぐでんに酔って歩けなくなった彼女をおんぶして帰る、というデートシチュエーションを依頼した僕が浅はかだったのだ。  人間と同じ温もりを再現できるようになったとはいえ、体重三〇〇キロもあるアンドロイドを背負うのは……。
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