ルームナンバー315

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突然の申し出に、慌てて掴まれた手を引っ込めようとするも、いつの間にかお互いの指がガッチリが絡んだいわゆる恋人つなぎの形になっており、全く抜けなくなっている。あれ、いつの間にこうなった? 「いや、あの、その、やっぱり神山さんが認識されてた方法は、世間でも一般的だと思いますよ!だから研究しなくても大丈夫だと思いますよ!うん!」 我ながらおかしいとは思いつつ、慌てて断る言い訳を口にするも、またしてもイケメンの口撃。 「山本さん、あなたは教えを請う人のお願いを無下に断るんですか?一度教職を目指した者として最後まで教える責任があるんじゃないですか?」 「いやいや、どういう理屈ですかそれ。私なんかどこからどう見ても色っぽくもないし地味ですし!それにそんなこと責任重大ですし、恐れ多くて!!」 中肉中背、特別華やかな容姿でもなければ肉感的な悩殺ボディなんかでもなし。 自分で言うのもなんだけど、こちとら性的魅力に溢れているなど一度たりとも言われたことはないし、むしろどちらかと言ったら地味と言われる立ち位置である! 体を反らせて力一杯反論する私と、それを追いかけるように身を乗り出してくる神山透。 「そんなことありませんよ。山本さんは十分可愛らしいじゃありませんか。それにほら、このキラキラした髪なんて、触り心地が良さそうだなってさっきから思ってたんですよ?」 イケメンは空いたもう一方の手を伸ばすと、ブンブンと首を左右に激しく振ったせいですっかり乱れてしまった私の髪を、するりと掬うとふわりと笑って顔を覗き込む。 その仕草に一瞬胸がドキリとするが、流されてはいかんと必死に気を引きめる。 肩に届きそうな毛先をクリンと内巻きにして、ちょっとお高いスタイリング剤の力を使って艷やかにさせたヘアスタイルは、確かに数少ないチャームポイントの一つであると自負するところの私であるが、下心ありきで取ってつけたように褒められる為に日々のお手入れをしている訳では無いのである! 顔を傾げる振りをしながら目を逸らし、そっとイケメンとの距離を再び取ると、この状況を打破しようと試みる。 「う、うーん、髪を褒めて頂けるのは嬉しいですけど、だからといってそんな理由でお願いされましてもねえ?」 「いえ、それだけじゃありませんよ?今日このお店に来るまで僕に気を使って色々気が紛れるような話をして下さってましたし、さっきだって僕の思い込みを丁寧に指摘してくれた上に、落ち込む僕の肩を叩いて慰めて下さっていたじゃないですか。そんな親切で優しい山本さんを信用したからこそ、誰にも相談できないような、こういったお願いをしたいと思ったんですよ。」 これは真面目なお願いなんですよ、と言わんばかりの神山透の話は続く。
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