はじまりの給湯室

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と、いうか紺野洋子の彼氏って営業部のエース・神山透だったのか。 高身長、高学歴、仕事ができて、体のラインもシュっとして、社会人あるあるの「仕事が忙しくて身体のメンテまで手がまわりませーん」的な筋肉が落ちてタルっとしてるなんてこともない。 一度仕事の打ち合わせで隣に座った時の横顔を思い返せば、まつげがフッサフッサで鼻が高くて、眩しいくらいのイケメンぷり。その上性格も穏やかで人当たりが良いときたものだから、陰では「王子」とかなんて称賛されている存在なのだった。 ……うん、ありゃ確かにハイスペック。まさしく社内最優良物件だわ。いやあ洋子さん、お目が高い。 一人うんうん納得していると、バサリと紙袋が落ちる音。 振り返ると目の前には顔色を真っ青にして口に手を当てる噂の主、神山透。 足元には仙台銘菓の萩の月の紙袋。 ……あー宮城県に出張だったのかー。 で、出張帰りに出社して、彼女が給湯室にいるって話を聞いてお土産渡しに会いに来たって感じかー。 萩の月って美味しいよねー。 冷やして食べるとよりクリームがねっとりするんだよねー。 牛乳と一緒食べてもイケるんだよねー。 チョコ味も実はあるんだよねー。 足元の萩の月に思いを馳せながら、ちらりと神山透を盗み見ると。 ……この顔、このリアクションは、多分、給湯室の彼女達の話、聞こえちゃってる、よ、ね……。 ハイスペック(但し夜以外)な彼氏が扉の外にいると気が付かない彼女たちのエゲツない会話は続いていく。そしてそれを耳にする神山透は青い顔を更に更に悪くしていって、ついには顔全体を手で覆ってうなだれて、 「山本さん、これから飲みに行きませんか?」 なぜか私を飲みに誘ったのだった。 ……はぁ?! 私ぃ???
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