ルームナンバー315

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「あれ?山本さん、コーヒー入れに行ったんじゃなかったの?」 席に戻れば隣の席の先輩、小西さんがスンスン鼻を鳴らしながら声をかけてくる。まあ、コーヒー入れて残業に備えますわ!と威勢よく席を立ったというのに、その香りもさせずに戻ってくれば、そんな指摘も受けちゃうよね。 「あー。なんか、ちょっと給湯室に入りづらくって……。やる気も削ぎれちゃったんで、今日はもうこれで切り上げて帰りますね。」 空のカップを机に置いて、モゴモゴお茶を濁すように説明しながら帰り支度を行えば、ふんわりとした優しげなお姉さんといったいつもの顔をしかめた小西さんが更に話を続けてくる。 「あ、もしかしてまた誰か給湯室で井戸端会議でも開いてた?あの狭い感じが雑談するのにしっくりくるのかもしれないけど、あれはほんっと、良くないよね。」 雑談するなら休憩室もあるというのに、なぜいつも給湯室で長話するのか?使いたい人の迷惑になるではないか! 次第にプンスカ怒り口調でその熱き思いを口にしていく小西さん。おっとりとした彼女からこんな言葉が飛び出してくるとは日頃から何か思う所があったのか……。 「私なんて来客のお茶出ししに行く時に、誰も給湯室に居ませんように!とか祈りながら行ってるしね。」 雑談する先客の会話を中断させるようにして中に入っていくしかない時のあの居た堪れなさは、ほんと度々だと嫌になっちゃって。と、肩を竦める小西さん。 あー、わーかーるー。 気を使って一応ノックしてみたりとか、お楽しみ中申し訳ありませんがこちらも仕事なんでね、という素振りで中に入っていく小芝居も、毎回やっていると流石にウンザリしてくるもんね。 人はなぜ給湯室で長時間雑談をしてしまうのかというテーマで彼女ともっとじっくり議論をしたいところではあるが、勢いで約束した神山透との待ち合わせ時間も気になる所。 そんな訳で私は帰りの挨拶もそこそこに、オフィスをそっと退室するのであった。
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