ルームナンバー315

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神山透は口数少なく、背中も少々哀愁を帯びているように見えるものだから、こちらもなんだか気を使ってしまう。 仕方がないので天気の話から通勤ルートから見える噴水の綺麗な公園の話、近所で見つけた大振りの木蓮の花が咲いた話まで、思いつくありとあらゆる雑談を一方的にべらべら喋り倒し、お陰で店につく頃には猛烈に喉がビールを求めているのであった。 改札の反対側のこの店は、会社の人の利用が少ない穴場である。また、ある程度ガヤガヤ騒がしい店内は、大声でもない限り、周囲に話も聞かれまいというチョイスでもあった。 どうだ、この短時間で考え出されたホスピタリティ! なのにこちらの配慮を知ってか知らずか、このイケメンときたら店に入っても相変わらず顔色悪く、しょんぼりして会話の一つもしようとしないではないか。 生ビールとお通しが、すばやく運ばれてきたので、 「はいっ!本日もおつかれさまでした!」と、反応の無い相手ととりあえずの乾杯をして、ゴックゴックとビールを飲み込んで。 「ぷっはー!仕事終わりの一杯がたまらん!!神山さんも出張だったんですよね?いや〜お疲れ様でした!まあ飲みましょうよ!!」 と、わざとらしいくらい明るく酒を勧めてみた。するとやっと反応を示したイケメン、ジョッキを手をするとゴキュゴキュと喉を鳴らしてビールを一気に流し込み、フゥーとため息をつくのであった。
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