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序章 名もなき物語
むかしむかし、魔界にはあの世とこの世の境に閉じ込められた、哀れで孤独な九人の悪魔兄弟がいました。彼らはいつも九人でした。彼らはいつも九人ぼっちでした。
そんな九人ぼっちの悪魔たちの前に、一人の天使が舞い降りたのです。
感情の凍てついた九人ぼっちに、天使は愛を教えました。
九人ぼっちは、天使と出会って初めて涙の味を知りました。
たくさんキスをしました。
痛いくらいに抱きしめ合いました。
やがて九人の悪魔と一人の天使は手を結び合い、九人ぼっちは十人ぼっちとなったのです。彼らは一つの家族となったのです。
ですが、十人目の末っ子は神の使徒、天使です。
天界と地界の交わり、それを神は許しません。
神の逆鱗に触れた十人ぼっちは、されども神を欺き続けました。
神は裁きを下しました。
十人ぼっちは、十人ぼっちのまま、夜半の嵐の中で共に死にました。
生まれ変わっても、家族になろう。
十人ぼっちの、最初で最後の約束でした。
鉄炮雨に打たれながら、天使は掠れた声で歌いました。
骸と化した家族と手を結びながら、天使は血を吐いてもなお歌いました。
声が枯れるまで、命の灯火が消えうる最期の一瞬まで、名もなき歌を歌い、紡ぎました。
その歌声は、生死の境界を越えて、天地を貫き、果てしない世界へと響き渡りました。
その歌声は、聴いた者たちの心の影を優しく照らしていきました。
その歌声にのせた悲しい哀しい秘められた記憶が、全生物の脳裏へと花咲きました。
これは、愛を乞うた十人ぼっちの名もなき物語。
『はい! おしまい! そろそろねようね、アイちゃん!』
『ユウキにいちゃん! もっかい! もっかいよんで!』
『もぉ、アイちゃん、これでごかいめだよぉ? アイちゃんはほんとにこのおはなしがすきだねぇ〜』
『うん! だいすき! だいだいだあ〜いすき!」
『でも、かなしいおはなしだよねぇ』
『う〜ん、そうなんだけどねぇ、なんだかねぇ』
『なんだかねぇ?』
『なんだかねぇ! このじゅうにんぼっちは、またあたらしいせかいで、しあわせなかぞくになれたきがするんだ! だってさ、だってさ、じゅうにんだよぉ!』
『じゅうにんだねぇ』
『うん! おれたちとおんなじ、じゅうにんきょうだいだもんっ!! じゅうにんそろったら、おれたちみたいにちょ〜〜〜さいきょうだよっ!!』
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