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ガタン、と段差を乗り越えていくトラックの音に目を覚ます。
暗闇に目はなれないが、背中にほんのりとした熱と鼓動を感じる。
そして、時折耳をくすぐる寝息。
首をゆっくりと回して振り返ると、目の端に見える寝顔。
寝返って、おぼろげに見えてきた寝顔と向き合っていると、少し開いた口から、甘ったるい香りが鼻を包み込む。
垂れ下がった髪の毛をひとふさ、そっと指で避けてみても、まぶたは重く閉じられている。
繁華街から少しだけ離れた、海辺近くのホテルでこうやって彼と一緒に夜を越え朝を迎えるのは、何回目だろう。
「もう少しだけ」
時計が午前を回る前に帰ろうと思っているのに、そう彼に言われて肩を付き合わせて飲んでいるうちに、いつのまにか終電を逃してしまう。
いつもそうなんだ。
帰りたいと言いながら帰りたくない気持ちを見透かされているのかもしれない。
大人の女性としての矜持と恋人に期待する狡さが絡まったまま歩いていたら。
引っ張っていたはずの腕を引きつけられて、気がついたら抱かれてしまって。
このやろ。
ぴん、と指で額を弾いてみたけれど、反応はない。
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