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「もう少しだけ、いい?」
昨夜に限ってはいつもあなたが言うセリフを私が呟いたから、ちょっとだけ訝な顔をしてたのに、今はすやすやと眠っている。
気づかないんだね。
いつもとマニキュアの色も、口紅の色も、変えてたのに。
こんなんじゃ、今からパチンと頬を引っ叩いても、ぎゅっと首を締め上げても、ごつんとテーブルの上の灰皿で殴りつけても、ぶすっとバッグに忍ばせたカッターナイフで胸を突き刺しても、気づかないかもね。
夜の針が進むにつれて甘い空気に霧散していったはずの、行き場のない淀んだ気持ちが、また胸の中にじわりじわりと集まってきた。
「みさー、こっち!」
いつもならあなたと夜をともにする月末の金曜日。
来週にしてほしい、と直前に言われて予定が空いてしまった私は、翌日の昼間から
デパートに出かけてひとりで買い物をしていたとき、あなたの声に気づいてしまった。
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