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彼の手を取り、あの日小さな彼女の手を握っていた指と指の隙間に指を入れていくと、掌からじんわりと彼の温もりが広がっていく。
彼のものか私のものかわからない鼓動の波が、どす黒く固まりかけていた心を少しずつ溶かしていった。
もう。
私だけ感情のジェットコースターに振り回されて。
正直言って悔しいけれど、仕方がないって気もする。
理性や世間の目を頭の中に持ち出しても、止まらないのは私の気持ちだから。
絡めた手をぐっと強く握りしめても、彼は一向に起きそうもない。
男の人に似合わず柔らかな頬に触れそうにして、やめた。
眼を細めて傍らにあるサイドテーブルの時計を見つめると、もう少しで地下鉄の始発が動き始める時間だった。
握っていた手から指をそっとはがし、ゆっくりとベッドから起き上がる。
床に降り、昨夜二人で脱ぎ捨ててはごちゃまぜになった衣服の塊から自分のものを選び出し、着ていく。
ベッドの上でまだ眠っている彼が、酔いつぶれてテーブルに突っ伏している父親に見えてちょっと笑えた。
お酒を飲むと酔いつぶれる父親が、家庭の外で女性をつくるなんて器用なことできるなんて思わなかった。
休日はいつも家にいた父親が、ある日突然出ていくなんて、思いもしなかった。
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