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立ち上がり、ベッドの彼の方を向いた瞬間。
デパートで見かけたあの女の子が彼に駆け寄っていき、覆いかぶさった。
表情は髪に隠れて見えないが、肩を震わせ必死にしがみついている。
「行かないで!」
自分がかつて父親にしがみつき、何度も発した言葉を彼女が叫んでいる気がした。
寂しさ。無力。空虚。
ぽっかりと空いた心が虚しい言葉で埋め尽くされた日々。
未だに塞ぎきれない隙間がきしんで痛む。
ダメだ。
あの子を、同じような目にあわせてはいけないんだ。
あの子には、彼が必要なんだ。
眼をつむり、再び開けると、女の子は消えていた。
手に持ったカッターナイフと小瓶を見つめる。
こんなことやっても、誰も幸せにならない。
彼も、私も、女の子も。
ふうと息をつき、ごみ箱の中にそっと置いた。
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