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トラックが行き交う音が部屋に染み出す。
遮光カーテンから漏れ出す朝の光が色を帯び始める。
私はベッドの端にしゃがみこみ、彼の顔を覗き込んだ。
もう見ることがないだろう彼のまぶたの奥にある瞳と、DVD を見る父親のタレ眼が重なった。
似てるんだね。
だから好きになっちゃったのかな。
笑えばくいっと下がる、整った眉も。
いつも少し大げさな、身振りも。
ぎゅっと抱きしめてくれる、腕の太さも。
心が落ち着いていく、胸の鼓動も。
バッグを手に取り立ち上がろうとするが、目眩がした。
呼吸が荒くなり、歯がガタガタと震えそうになるのを唇を噛み締め堪える。
あの日、あの女の子が向かった先にいたのは、笑顔の彼で。
その後ろには、笑顔の年老いた父親がいた。
こんな偶然なんてあるのかしら。
好きだった父親は家族を裏切って。
好きな彼も家族を裏切って。
その果てが、姉弟で愛しあうことになってしまった。
でも。
父親が裏切らなければ、彼に出会うことはなかった。
彼が裏切らなければ、心の隙間を埋めることができなかった。
人を愛することを思い出すことなんて、きっとできなかった。
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