鈴ノ音ガ聞コエル

5/9
前へ
/9ページ
次へ
 その後はなんとなく調べたふりをして、「特に何も憑いていないようなので、この部屋は大丈夫じゃないですかね」と伝えた。それを聞いて茜は安堵したが、多聞はまだ少し顔色が晴れない。  形式的な挨拶を交わし玄関まで戻ると、「毎日聞こえた鈴の音は何だったんだろう。やっぱり僕の幻聴なのか?」と多聞が呟く。 「不安なことがあると幻覚が見えたり、幻聴を耳にすると聞いたことがあるので、あまり気にしない方がいいんじゃないですか?」 「そうか。この不安ももしかして、『』とやらのせいか?」 (え?)  ギョッとして改めて多聞を振り返る。異形の名を口に出したかどうか急速に記憶をたぐるが、茜もいるのにそんなことをするわけがなかった。  茜には「忌一と一緒にいたくない」と言われたばかりだ。これ以上嫌われたら死んでしまうと、彼女の前では絶対に式神と会話をしないよう、細心の注意を払っていたはずなのだ。 「あの……その『吹き込み』というのは……」 「あれ? さっき言ってなかった? 不安にさせるとか、精神を衰弱させるとか」 (桜爺の声が聞こえてる!?)  すでに扉を開けて待っていた茜には聞こえないように、忌一は多聞の耳元へ近づいてコソコソと何かを訊ねた。 「ああ。昔からいろいろ聞こえるんだ。多分幽霊とかそういう類の声とか。目には見えないけどな。今回もこんな生活に支障をきたさなきゃ、管理会社に言うつもりは無かったんだが……」  忌一はガックリと肩を落とし、クルッと玄関扉へ振り返った。 「茜……ゴメン。多聞さん、俺のお仲間かも」 「え!? 何それやだ!! どういうこと!?」 「夜中になってみないと原因はわからないってことかな」 「……じゃあ泊まってけば?」 「「え!?」」  流石にそれには多聞も動揺する。 「急にそんなこと……困るだろ」 「いいよ、別に。原因がわかるなら」 「いいの!? いや、茜だって急には……」 「何言ってんの? 私が泊まるわけないじゃん。忌一だけに決まってるでしょ」  こうして話はあっさりとまとまり、気後れしている忌一だけを残して、茜はさっさと小咲不動産へ戻るのだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加