80th BASE

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「セーフ、セーフ」  一塁塁審の両手が広がる。意表中の意表を突いた紗愛蘭のセーフティバントは見事に成功する。 「よし、上手くいった」  一塁ベースを駆け抜けた紗愛蘭が仄かに頬を緩める。実は二球目と三球目の間にサードの長谷川の守備位置などを確認しておき、勝算があると見込んでいたのだ。  これでランナー一、三塁と亀ヶ崎がチャンスを拡大させる。対する楽師館は万里香がマウンドに駆け寄り、石川を宥める。 「いやあ、紗愛蘭がバントしてくるとはね。結構良いところに転がされたし、防ぎようがなかったよ。ひとまず一点は上げても良いから、焦らないようにしよう」 「うん。これ以上は繋がれないように気を付ける」  二人は自分たちが三点をリードしていることを改めて認識する。先ほど一点でも亀ヶ崎に入れば流れが変わるかもしれないと述べたが、楽師館としてはその一点を渋って複数失点をしては元も子も無い。次打者が四番のオレスともなれば尚更アウトを一つ増やすことを優先すべきだろう。  では亀ヶ崎は一点を取った上で、更なる追い上げをしたい。前の打席で試合全体の初安打を放っているオレスに、亀ヶ崎ナインは大きな期待を掛ける。 「オレス頼むぞ! 打ってくれ」 「この回で一気に逆転しよう」  初球、ボールになるカーブが来る。オレスはきっちりと見極めた。 (途中からこのカーブを使うようになったことで、うちの打線は真っ直ぐに目慣れできず差し込まれ続けてる。一試合を通した配球としてはパーフェクトね)  二球目。内角のストレートをオレスが打ちにいく。しかしバットには掠りもしない。
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