81st BASE

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 一球目。春歌は低めのチェンジアップから入る。初球から打ちに出るべきとする代打の鉄則を逆手に取り、空振りを狙う。 「ボール」  ところが林のバットは動かず。ボールが一つ先行する。二球目、春歌は外角のカットボールを投じる。今日はカウントを稼ぐ珠として有効に機能しており、ここでもストライクを取れた。 (ここで失点したら、それまで抑えてきた価値が一気に落ちる。そうはさせない)  真裕の後を受けた投手が好投し、その間に逆転して勝利を収める。そうした展開が亀ヶ崎には練習試合を含めてもほとんど無かった。もしも今日の春歌がその立役者となれば、彼女の評価は大きく上がる。己を高みへと導くためにも、このピンチは切り抜けなければならない。  三球目、春歌はまたもや外のカットボールを投げる。今度は林が手を出してきたものの、当たり損ないのゴロが一塁側のファールゾーンを転がる。  この場面で同じ球を続けることは相当な勇気が必要だが、結果的に春歌はツーストライク目を取った。林はストレートで来るのではないかと思ってスイングしており、その裏を掻いた形となる。  追い込むところまでは順調のバッテリー。あとはどう決着を付けるかだが、前述の通り外野に飛ばされたくはない。菜々花は複数のパターンから最適解を探す。 (空振りを取るにはチェンジアップが有効だし、見逃し三振を狙うなら膝元の真っ直ぐだな。ツーシームでゴロを打たせるのもありだけど、春歌は何が投げたいだろうか)  菜々花は一度春歌と目を合わせる。すると春歌は鋭い眼差しを一層尖らせた。まるで何かを念じるかのように……。
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