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後編
「……ン………、………ィ……ン」
頭の中に声が響いてくる。
誰だろう。
頬にぽたぽたと何かあたるような感覚がした。
寒い……。
寒くてたまらない。
もう少し寝かせてくれ。
そう思った。
「ガヴェイン!」
頭の中に鮮明な映像が流れて、エディの顔が浮かんできた。
目を開けたいけれど、瞼が重くてなかなか開かない。
「……ぁ…エ…ディ?」
「ガヴェイン! よかった……気がついた…ガヴェイン…」
今度こそやっと瞼が開いて、目の前には頭に浮かんでいたエディの顔があった。
だが、いつも余裕がある柔らかな目元は真っ赤になって濡れていて、しずくが滴り落ちていた。
「な…泣いて……いるのか?」
「っっあ! 当たり前だ! お前、傷だらけで雪に埋まっていたんだぞ! さっきまで…死んでいるみたいに白くて冷たくて……」
途中で嗚咽を漏らしながらエディは泣いていた。
確かに身体中痛くて重くて冷たい。
まるで死の淵から神にせっかく送ってやったんだから戻れと蹴り返された気分だ。
「サリナ王女は……?」
「ご無事だ。ここから半刻ぐらいの場所で保護した。よく頑張ったな…、三日間…攻撃を凌いで、守り抜いた。生き残ったのはガヴェインだけだ」
なんとか首を動かして周りを見ると、敵兵が俺と同じように雪にうまっている姿が見えた。
無我夢中で剣を振るって倒しまくったが、こんな状況で生き残ったなんて信じられなかった。
「おっ……俺……」
エディが泣いている。
俺のために泣いてくれている。
きっと前世も含めて、俺のために泣いてくれてたのはエディだけだ。
そんなエディの姿を見たら俺も涙が出てきた。
ポロポロと目のふちからこぼれ落ちていく。
「死にたくなかった…、エディに……エディに会いたかった」
「俺はここにいるよ。勝手に一人でなんて死なせない。ガヴェイン、お前は俺と生きていくんだ。離れるなんて許さない、これからはずっと…ずっと一緒だ」
エディの口調から抗えないような強いものを感じた。まるで生まれながらの高貴な支配者のように輝いて見えた。
それでいい。
エディが支配者なら俺は喜んで膝をついて忠誠を誓う。
「ああ、俺はお前の…ために……生きる」
そこまで口にしてから俺の意識は薄くなった。
そして深い眠りの世界に沈んでいくように消えていった。
今度は寒くなかった。
きっとエディが俺を抱きしめてくれたのだろう。温かくて優しくて…心地よかった。
王女を助けた功績が認められて、俺は聖騎士団に任命された。
ただし使えるようにならなければまともに働けないので、しばらく病院に入り大人しく回復に専念した。
ようやく退院したが、まずは体の感覚を取り戻すために休みをもらい、ガキの頃のようにひたすら体を鍛えて筋力を取り戻す訓練を行う日々が続いていた。
夕食後、寝る前に少し走ってから部屋に戻ってくると、ベッドサイドに置いたランプに消したはずの明かりが付いていた。
盛り上がっている布団を見て、誰がいるのかすぐに分かった。
「エディ! 帰ったのか!?」
思わず声をかけて近づくと、布団の中から寝ぼけた顔のエディがのっそりと出てきた。
「うー…、ガヴェインを待っていようと思っていたのに…寝ちゃったよ…」
大あくびしながらぐっと背伸びしたエディは、寝ぼけた顔だったが俺の顔を見てニカっと歯を見せて嬉しそうに笑った。
治療に専念していた俺の側にエディはずっと付いていてくれたが、俺が動けるようになったら、やっと安心したのか、やることが残っていると言ってしばらく休みを取って実家に帰っていたのだ。
叔父達がどうしているかさえ分からないくらいの俺と違って、エディは男爵家の息子だ。昔は居場所がないと言っていたが、それでも何か求められていることがあるのだろうか。
「実家の用事はどうだった? ご両親や家族は変わりなかったか?」
「ああ、色々と大変だった……。俺さ、ずっと自分の宿命ってやつかな、そういうものから逃げていたんだ。母は身分が低かったし、家族間の揉め事が多くて命を狙われていていた。物心ついた頃にはかつて王国の騎士団長をやっていた男と森の中で暮らしていた。その男を師匠と呼んでずっと剣の修行に明け暮れた。自分の身は自分で守れるように、母が手引きして俺を隠したんだ」
エディが語り出したのは誰が別人の物語なのかと思うくらい、聞いたことのない話だった。
エディは自分のことのように話しているが、男爵家の四男で地味に生きてきた少年の話とは大違いだった。
「それなりに使えるようになったら、男爵家の息子として、騎士見習いに潜り込んだ。いつか、来るべき時が来るまで身を隠すには最適な場所だった。まさかこんなに近くにいるなんて考えられないだろうし、剣術の腕を磨いて、王国の様子を探るにはちょうど良かった」
俺は話し続けるエディの横に座った。これはもう冗談を言っている場合ではなさそうだ。真剣に話を聞くことにした。
「一年前、第一王子が病に倒れたと聞いた。目を悪くして足も動かせない状況だと。黒魔術を使って他の兄弟達を殺した反動だろう、もう長くないという話だった。王は王太子の座は生き残ったものに与えるとしていた。そうやって一番強い者が王になってきたのが悪しき伝統だったからね。殺し合いをしてくれて全員自滅してくれたら一番いいと母が望んでいた通りになった。そして連絡が来た、ついに来るべき時が来たと……」
エディが話しているのは王国の王族達の争いのことだった。
この国は王の座は、王子達の中で生き残った者に与えられるとされていた。
確か王子は四人いて、二名の王子は殺されて一名は行方不明、第一王子だけが残ったが、彼もまた病に倒れてしまった。
最悪全員が亡くなってしまったら、王女達が産んだ子が次の王となるという、ずいぶんと残酷な伝統があるなと思っていた。
黒魔術は強力な魔法だが反動が大きく、使うことは禁忌だとされている。
第一王子は体も弱くて力もなく、それに頼るしかない状況だった、そう思うとより恐ろしくなった。
しかしなぜ王族の争いについてエディが話しているのか。
もしかして…ずっと俺が見てきたエディには別の顔があった。
それは……。
「……すぐには決められなかった。ここでの暮らしが……幸せすぎて……。ただ潜んで暮らすだけのはずだったのに、ガヴェインと出会って、一緒に過ごすうちに……ずっと同じ騎士として生きていけたらいいと思ってしまった。だから逃げていたんだ、全てを忘れてエディとして生きていきたいと……。でも、ガヴェインを……ガヴェインを失いそうになった時にこのままではだめだと思った。自分の宿命、逃げていても大切な人を守ることができない。俺は心を決めた」
「エディ…、お前は……」
「俺の本当の名前は、エイドリアン・ナインフェルト。行方不明になった第四王子だ」
窓から強い風が吹いてきて、エディの周りを囲んだ。あまりの勢いに思わず目を閉じたら、すぐに風が止んだのが分かった。
今のは何だったのだろうと目を開けたら、目の前のエディがまるで別人のようになっていた。
「えっ…えっ、エディ…髪…瞳の色が……」
地味な茶髪に茶色の瞳だったエディが、月の光のような金髪に澄んだ鮮やかな青い瞳に変わっていた。
それはまさに、王族であることを象徴する伝統的な外見だった。
「母が黒魔術士に命を賭けて依頼した魔法だよ。次に自分の名を口にした時に、元に戻るようにしたんだ」
「そんな大事なものを…俺の前で…」
「戻るならガヴェインの前でと決めていた。ずっと騙していてごめんね」
正直なところ、頭の整理がつかなくてこんがらがっていた。
しかし、大変な立場に生まれ大人達の都合で常に死の危機にあり、母の命を賭けた期待を背負って身を隠して生きてきた少年のエディを思ったら、俺は何も言える立場ではなかった。
そんな、過酷な状況なら自分の身分を明かすことができないのは当然だろう。
「エディは何も悪くない。必死に生きてきただけだ。俺に謝る必要もない。お前が誰であっても、エディであることには変わりないし、俺の気持ちも変わらない」
「ガヴェイン……」
感極まった表情になったエディが俺をガバッと抱きしめてきた。
きっと、黙っていることがずっと辛かったのだろう。それに、本当のことを話して俺に嫌われないか心配だったに違いない。手も体も震えていたので慰めるように優しくさすってやった。
「しかし実家って、もしかして王に会いに行ったのか? よくその格好で……」
「ああ、王の子は特別な痣を持って生まれてくるんだ。それを見せたらすぐに分かってもらえる。証明みたいなものだ。ずっと嫌いだったけど、これで楽に話が通るなら便利なものだと初めて思ったよ。戻るって話をしたら、あっさり認めてくれたよ。生き残ること、それが課題だったわけだから、王からしたら俺が逃げていたのもその一つの方法にすぎないと言うことなんだろうな」
俺はエディの肩についた痣を知っている。いつも包帯で巻いて隠しているが、まだ少年剣士だった頃、特別だと言われて見せてもらったことがあった。
エディがシャツを脱いでしゅるりと包帯を取ったら、あの時見た痣が確かにエディの肩にあった。
俺から見ると、炎が燃えるようなカッコいいデザインに見える。確かにこんな痣を故意に作り出すことは難しいだろう。
タトゥーみたいにも見えるなと興味があって思わずぺたぺたと触っていたら、エディの息が急に荒くなってきた。
「悪いっ、触ると痛いのか?」
「い…いや、痛いって言うか……。そこ、敏感だから好きな人に触れられると、ムラムラしちゃうんだよね」
エディが下を指差しているので、何かと思って目線を下に向けたら、エディのアソコが完全に勃っていて、ズボンを押し上げていたので驚いて息を飲んだ。
「ねえ、ガヴェイン。体はもう大丈夫? 今日こそ抱きたいんだけど。ずっと我慢していたんだよ」
「あ…え…っっ…、ほっ本気なのか? 俺を抱くって……。こんなデカい男をだぞ?」
「は? 好きなんだったら当たり前だろう。俺はガヴェインを愛したい、夢の中で何度こんな場面を見たか…」
俺とする夢を見たのかと言うのも驚きだった。しかも恥ずかしがることもなく、いつもの涼しい顔で普通に言ってくるので色々と錯覚しそうになる。
「え…ええとな。確認しておくと、俺はバリタチなんだ。いわゆる挿れる専門で……」
「知ってる。今まで付き合った女の子は三十四人。そのうち、行為にいたったのは二十人、男は一人もいないから、後ろは処女なんだよね。何も問題はない」
今度は驚きすぎて言葉が出てこなかった。
何も問題ないなんてことはない。問題大ありだ!
「なっなななななぜそんな情報を……」
「ああ、蜘蛛っていってね、王族には生まれた時から手足になって動いてくれる一族がいるんだ。誰に付くかは彼らが選ぶんだけど、俺に付いてくれたから、それ以来聞けば知りたいことを調べてくれる」
また知らない情報が出てきた。
これは黙っていてごめんね、の中に含まれていたのだろうか。
さすがにそんなプライベートなことまで調べられていたなんて頭がおかしくなりそうだ。
「好きなんだから仕方がないだろう。ガヴェインは誰にでもホイホイ付いていくから心配だったんだよ。俺の気持ちも知らないで恋愛を楽しむ楽しむって言っていつもさぁー」
これはどうしたものかと頭に手を当てた。エディは確かに周りと違うところがあったが、複雑な家庭環境で常人とは違う感覚になってしまったのかもしれない。
もう、そういうことにしておくしかない。
「……っああ!! 俺が付き合う女の子が次々と結婚して毎回俺がフラれるのももしかしてお前が……」
「まっさかぁー、さすがの俺でもそんなことはできないよ。女の子ってすぐ心変わりするみたいだからさ。ね、俺にしておきなよ」
エディは満面の笑みを浮かべている。
しかし俺は知っている。
あのこめかみの部分が少し揺れる時、エディは嘘をついている。
おいおい、どれだけ手を回したんだよ、この男は……。
「ね、とりあえず俺を試してみて決めてよ。男もイケるんでしょう。前、キスした時勃ったから大丈夫だよね、だから俺を使って……」
「おい、エディ。何を焦ってるんだ」
らしくない態度だ。
剣を持てば、ゾクゾクする目つきで人をバタバタと倒していくやつが、小汗をかきながら必死な様子だった。
俺を試すとか、使うとか、そんな言葉を言って欲しくなかった。
俺の指摘にエディは傷ついた目になって、萎れたように下を向いてしまった。
「……だって、そうだろう。俺はずっとずっと…、ガヴェインが好きなんだ。幼い頃、パンを食べさせてあげた時、泣きながら美味しいって言って笑うガヴェインを見てから、守りたいって思って、それがいつしか恋心に変わっていた。女の子しかだめなんだと思って我慢していたのに、男と付き合うかもしれないって聞いてプッツンキレちゃって、勢いで告白したけど……。ガヴェインの気持ちは俺にはないから、どうにかして振り向いてもらいたいから、必死なんだよ……」
「あのなぁ……言っただろう、あの時」
「えっ……?」
「北の戦いでエディは駆けつけて来てくれて、瀕死の俺をまた助けてくれた。その時、会いたかったって…お前のために生きるって言ったからな」
「だって、あれは……、友情と騎士の誓いみたいなものだと……」
確かに曖昧だったかと反省した。
この猪突猛進の男には、ハッキリ言わないと違う方向へ突っ走って行ってしまう。
「死の淵にあった時、思い出したのはお前の顔だ。生きたいって思った。エディに会えないまま死にたくないってそれしか考えられなかった。本気の愛なんて知らなかったけど今なら分かる。この人と一緒に生きていきたい、そう思えるのが愛なんだと」
「ガヴェイン…う…うそ……それって……」
「だから愛だよ愛。エディを愛しているんだ」
「ガヴェインっ!!」
「ううおっ…!」
エディは俺に飛びついて来て、ベッドに押し倒された。華奢な令嬢なら骨が折れるんじゃないかという馬鹿力だ。
さっきまで下を向いてもじもじしていた男とは思えない。いきなりビンビンの雄になって、唇に食らいついてきた。
「……っっ………ふっ……ぁ……っっ…」
キスだってリードするのはいつも俺の役目だった。それが完全に主導権を握られてしかも気持ちよくて声が漏れてしまった。
こんなの知らない。
こんなの俺じゃない。
「ふふっ…可愛いね、キスだけでとろんした顔しちゃって、本当に挿れる専門だったの?」
「エディ…お…お前……」
「あれっ、ガヴェインそんなとろん顔で怖い顔しても可愛いだけだよ。ここを弄ったらその顔がどうなるかな」
「あっ……」
エディにすっかり勃ち上がったアソコを掴まれてしまった。
しかもキスをしている間にズボンを下にズラされていて、下着越しに掴まれた。男の大きな手で包まれている感覚がたまらなく気持ちよく感じた。
「はははっ、ちょっと擦っただけで我慢汁。溜まってた? それとも俺が触れたから?」
小馬鹿にされたような言い方も普段なら怒りが湧きそうなのに、ゾクゾクして気持ち良すぎる。
なぜなら俺を見つめるエディの目は真剣で、いつも手合わせする時の全身を貫かれそうな強いものだった。
「くっ、…うっ…激しく…するな、で…出てしまう」
俺をギラギラと見つめながら、エディは巧みに手を動かしてペニスを擦ってきた。
この俺がこんなに早いわけがない。
必死に我慢しているが、まさか相手より早くイクなんてそんな経験初めてなので、頭が混乱しそうだ。
「ここも美味しそうだよね。ガヴェインはたまに訓練中に無防備に上半身裸になっていただろう。何人涎を垂らしていたか知らないよね。俺の自制心を試されてるのかと思っていたよ」
シャツを破るように開けられて、エディは胸の尖りに舌を這わせてきた。
そこを弄られたことなんてほとんどない。俺が可愛がってあげる場所のはずだった。
エディの舌は、そこだけ別の生き物なのかと思うくらいとんでもなく動いてくる。
舌で触れて甘く噛まれて、俺が声を漏らしたらそこをもっと強く吸われた。
指でこねたり引っ張ったりされて、俺の乳首はあっという間に赤く色づいてしまった。
「うわぁっ、エロぉ。やばい、これ見てるだけでイキそうな光景。ガヴェインの乳首、俺が赤くしたんだよ。もう、最高…エロ可愛すぎる」
「んぁっ…! ちょっ…あまり吸うなって」
「あれぇ、敏感になっちゃった? 大丈夫、これから毎日吸ってあげるから。ここ、弄っただけでイクようにしようね」
エディの言葉にゾクゾクして震えた。エディはこんな男だっただろうか。俺が火をつけてしまったのかもしれない。
しかもそんな変化が嬉しいと思ってしまっている、俺も相当重症だ。
「さてと、そろそろ準備しようね。ガヴェインにはたくさん気持ちよくなってもらわないと」
エディはズボンのポケットの中から小瓶を取り出した。
それを丁寧に指に塗りつけているので、意味が分かった俺は体がぶるりと震えた。
自信満々の顔で俺の下着をすっかり脱がせてきたので、さすがに逃げられない状況に腹を括るしかなかった。
「おい…、ずいぶんと用意がいいな」
「え? だって、体で落とそうかなと思って準備してきたし」
本気でそんなことを考えていたのかと呆れた。どこまで俺は性欲のかたまりみたいなイメージだったのだろう。
「ほらほら、違うこと考えないで、こっちに集中してよ。俺の指がガヴェインの中に入るよ」
「うっ……」
「たっぷり塗ったからヌルヌルなの分かる? ほら、ここぐるんて回して…あっ、今きゅっとなった、気持ちよかった?」
「い…ばか、……言うな」
エディの指は太くて長い。ごつごつして硬い指が、俺の後ろの中をぐるぐるとかき回すように広げてくる。
初めは違和感があったが、いつの間にか全身熱くなってむず痒い感覚に支配されて変な声が出てしまいそうなのを必死に耐えていた。
「うううっ…は…あっ! だっ…だめだソコは…やめ…」
「え? ここ?」
「はぁぁっ! だ…め、あっ…あっあっ」
俺の反応が明らかに変わったので、エディは目を輝かせた。
興奮した目になって、ソコばかり責めてくる。まずいところを知られてしまった。
「だめじゃないでしょう、そんなに気持ち良さそうな顔して…。ここ…なんだろう? ごりごりしていて、擦るとガヴェインの中、うねってぎゅぎゅ締めてくるんだけど」
「ぜ…前立腺だ。男が…きもち…よく…なるとこ」
「へぇー、男は未経験のくせして、よくそんなこと知っているね」
「ち…知識として…知っておく…べきだと……って……くくくっあああっ」
「気に入らないなぁ。そっちの知識を俺より知っているのは気に入らない。まぁ、いいよ。ガヴェインをアンアン言わせられたら、満足するから」
「だっ…ああっ…、だれが、そんな…こと…んんっ」
散々俺の中を指でほぐしていたエディだったが、ズルリと指を引き抜いてしまった。
その刺激だけで、俺は達しそうになった。
そしてすぐに空っぽになった後ろが物足りなくて疼いてきた。
だから下着を脱いで裸になったエディを見てごくりと喉を鳴らしてしまった。
鍛え抜かれた逞しい体の真ん中に、同じく逞しく聳え立つ剛直。
子供時代から一緒にいたので裸は何度も見てきたが、こんなにもドキドキと心臓が揺れてしまうのは初めてだった。
「これが欲しい? ガヴェイン」
「はっ…欲しくなんか…」
生意気な俺の態度なんて気にすることなく、エディは俺の膝を持ち上げて、後ろの蕾にその逞しいモノを当ててきた。
「俺は欲しいよ…、ガヴェインの全部が欲しい」
エディは切ない目をして俺を見つめてきた。
月明かりに照らされて、まるで天使のように見える。壮絶な色気に包まれたエディは目が眩むほど美しく見えた。
「ハァ……そんな目をするな。欲しいよ、俺もエディが欲しい」
そんなに素直に言われたら、素直に返さないわけにいかない。
俺の言葉にエディは満足そうに微笑んだ。
「ガヴェイン…愛している」
「んっ…くっ……ぐっっ…っっっ!」
エディは俺の蕾の中に剛直をねじ込んで、一気に貫いてきた。
痛みがあったが、それを凌駕するくらいの快感が全身を走って、俺のアソコから押し出されるように白濁が飛び出した。
「っ…ガヴェイン、挿れた勢いでイッちゃったの? やばい…嬉しい…やばっ、ナカ気持ち良すぎる。俺もすぐ出そう」
「ぬっあああっ、今、まっ…待て…、イったばかり…あっあっ……んあああっ」
一気に興奮が高まったのか、エディはまだ敏感な状態の俺のペニスを掴んで自身を抜き挿しし始めた。
「ごめん…、ガヴェイン。止まらな…、はぁ…ハー…良すぎて…止まらない」
エディのデカくて硬いペニスはごりごりと奥を押していたと思ったら、激しいピストンが始まった。一気に引き抜いて突き入れられると目の前に星が飛びそうなくらいの快感が全身を痺れさせる。
声を上げそうになるのを耐えていたが、薄目を開けると、上になっているエディの顔が見えた。
目元は興奮で赤くなり、熱に浮かされたような色っぽい目で俺を見つめていた。
エディが感じている。
俺の中で気持ちよくて感じてくれている。
それが嬉しくてたまらなかった。
もう、タチがどうこうなんてどうでもよかった。
好きなやつと結ばれる。
こんな最高の幸せを今まで知らなかったなんて、信じられない。
いや、その相手がエディで良かった。
初めての幸せ、エディと結ばれたからこそこんなに気持ちよくて嬉しいのだ。
男二人で乗るには狭いベッドが、ギシギシと壊れそうな音を立てて揺れている。
エディが激しく腰を打ちつけるので、パンパンという肉のぶつかる音が外にまで聞こえてしまいそうだ。
そんな、音が気持ちいい。
音にまで感じてしまうなんて初めての経験だった。
「ハァハァハァ…、やば…だめ…もう、出そう」
「ああ…ナカに…そのまま……」
俺の顔の横に手をついたエディは、荒い息をしながら限界を訴えてきた。
掠れた色気のある声に俺の熱もどんどん高まってしまう。
「ああ…ガヴェイン…、イク…イクよ」
ガンガンと激しく突き入れた後、ピタリと腰を止めたエディは、俺の一番奥で達した。
びくびくとペニスを揺らしながら、俺のナカにどくどくと熱いものを放ってきた。
尻の奥に出されてこんなに満たされるとは思わなかった。一滴残らず飲み干したいと、俺の後ろはきゅうきゅうとエディのモノを締めつけた。
「はぁ…たくさん出ちゃった……。ガヴェイン、気持ちよかった?」
「……ああ、悪く…なかった」
「ふふふっ、こんなにとろとろにして…、またイッちゃってるよ、ここ……」
「ふあっ…」
エディに俺のペニスを指で弾かれた。どうやらエディの精を受けた瞬間、俺もまた達していたらしい。
俺が達したモノを指ですくったエディは目の前でペロリと舐めてきた。
「おおっ…お前、ばっ…そんなものを…」
「え? 美味しいよ。これも、飲みたくてたまらなかったんだよね。ああ、やっぱり想像していた通り、ガヴェインの味がする」
どんな味だと頭がクラクラした。
前世では当然飲んだこともあるが、お世辞にも美味いなんて言えなかった。
「あー、舐めたら美味しくしてまた興奮してきちゃった」
「あっ…お前、またデカく……」
達したくせに出ていかないと思っていたら、抜かずに回復してしまったらしいエディのペニスはまたどんどんとデカくなって腸壁を押し広げてきた。
「あのな…俺は初めてなのに…無茶を…」
「ああ、いいねその響き。ガヴェインの初めてを奪った男、最高だよ。それにここはもう俺専用だから、俺以外知る必要はないからね」
「くっ…当たり前だ…、後にも先にも…お前だけだ」
良かったと言って微笑んだエディは唇を重ねてきた。
下は繋がったまま、口内もエディでいっぱいになる。
甘くて苦しくて幸せ。
こんな気持ち、エディ以外となんて知りたくない。
心も体も満たされて、転生できたことを心から嬉しく思い、あの神に初めてちゃんとありがとうと感謝をした。
「ガヴェイン、ガヴェイン」
ぐらぐらと揺り起こされたが眠くてたまらなかった。
「ほら、早く起きないと遅刻だよ」
朝方まで挿れっぱなしで離してくれなかったくせに、なぜお前はそんなに元気なんだと思いながら俺はうーーんと唸った。
「任命式、始まっちゃうよ。主役が裸で登場していいの? 俺は誰にも見せたくないんだけど」
そうだ、今日は俺の聖騎士団団長の任命式。
原作では十九の時になったと書かれていたから、今二十歳過ぎの俺はやっと到着というところだ。
「エイドリアン…殿下。起こしていただき、ありがとうございます」
腰が重くて辛いが主役の俺が出ないわけにいかない。
大きくあくびをしてやっと起き上がった。
エディはとっくに準備を終えていてビシッとした皇族専用の黒の軍服に着替えていた。
「これでやっと、ガヴェインを俺だけの、俺と運命を共にする騎士にできる。それに…今日は最高の一日になるよ」
王国の聖騎士の騎士団長は、代々王太子になるものに一生仕える。
二年前王国に突如として復活した、赤子の頃から行方不明だった第四王子は、第一王子が病で退いたことにより、王太子となった。
本当ならすぐに騎士団長が専属となるはずだが、エディはそれを断って、この二年で何とか俺を団長にまで押し上げだ。
まあ、団員の中では俺が一番強いので、俺の実力ももちろんあったから決まったのだと願いたい。
「そういえば、教会から神子が選ばれたと連絡が入ったよ」
ずいぶんその名前を聞いていなかったのですっかり忘れていたが、それはまさか主人公のことではないのかと、服を着替えていたがボタンを飛ばしそうになった。
「儀式に参加しないかと言われたけど、すぐに断ったよ」
儀式、というのが確か相性の良い相手を見つけるための選抜戦みたいなものだった。
国の地位のあるイケメン達を招集して性技を競わせるものだった。
小説のキャラのガヴェインは、国の力になりたいと志願して儀式に参加、殺人級に可愛い主人公を見て参加者は全員一目惚れ。ガヴェインは一人目に選ばれてつまらなかったとソッコーでフラれる役だ。
そこで俺はあることに気がついてしまった。
候補者の中にいた国の王子様、金髪碧眼の美青年王子、名前はエイドリアン。
「マジか…、エディだったのか。じゃあ、俺達は原作ではライバル同士…」
エディがまさか主要な登場人物であったなんて、すっかり小説から頭が離れていたので俺は今初めて知った。
まさかの原作ぶち壊しでライバル同士で結ばれてしまった、しかも小説の話が始まる前に……。
しかもエディは最終的に主人公に選ばれるヒーローだった気がする。
それを奪うって、国は大丈夫かと心配になってきた。
確か相性がいい相手は何人かいて、最終的には主人公の好みで選んでいたはずだからおそらく問題ないだろう。
「何? 何か言った?」
「あ……いや、その通知、もしかして俺にも来てないかなと……」
「よく知ってるね。ガヴェインの通知は即お断りで返事をしてあるから大丈夫、あれ? 何か問題あった?」
「なっ……ない、たぶん」
参加しないのは問題ないが、人の通知を勝手に開けて勝手に断るのは問題なのではないかと思うのだが……。
「じゃあ、いいじゃない。それより、ははっ、やっぱり騎士服が最高に似合うね。俺の専属になるから、一人だけ青なんだよ。ああ、今すぐ抱きたい…」
話しながら今日のために用意されていた、青い騎士服に着替えが終わった。
聖騎士団は白が基本だが、専属に就いた者だけは青を着ることができる。
「バカ言うな、これ以上遊んでいたら本当に遅刻だ。王が真っ赤になって怒って認めてくれないぞ」
「ああ、それは困るな。説得するの苦労したし。仕方ない、執務室に戻ったら羽根ペンで遊ぶことにしよう」
「………お前、それはまさか」
エディがまさか本気でペンでお絵描きでもして遊ぶわけがない。嫌な予感を感じて苦い顔の俺を見ながらエディはニヤッと笑った後、スタスタと歩き出した。
護衛騎士の俺は急いでその後を追った。
「説得したというのは、専属騎士の件か? 陛下まで説得してくれたなんて……」
「そっちはすぐ決まった。実力が一番あるんだし誰も文句は言わないよ。説得したのはもう一つの方……」
「もう一つ? 他に何か……」
話して歩いていたらあっという間に任命式の会場に着いてしまった。
別々に入場するのかと思っていたら、エディはいきなり俺の手を取ってドアを開けるように指示を出した。
「おっ…おい、段取りが違うぞっ! なんで手を繋いで……これじゃ……」
俺達は恋人同士であるが、立場上こんな風に手を繋いでいるところを見られたら絶対にマズい。
何とか手を離そうとしたが、エディは得意の馬鹿力で全然離してくれない。
殴ったり蹴ったりするわけにもいかない。
唖然としている俺の目の前で両開きのドアがゆっくりと開けられて全開になってしまった。
大きなホールにはたくさんの人が詰めかけていて、俺とエディの登場に割れんばかりの拍手が沸き起こった。
直線に開けられた真ん中の道を歩く中、まるでバージンロードを歩くカップルみたいにおめでとうおめでとうの声に包まれて、花びらのシャワーまでかけられた。
任命式ってこんなものなのか、理解を超えて驚きと緊張で空いた口が塞がらない。
「ガヴェイン」
「は…はい!」
心ここに在らずで歩いていたら、目の前に国王陛下が立っていて慌てて膝をついて頭を下げた。
陛下は真っ白で立派な髭を蓄えてがっしりとした体つきをしていた。エディと同じ金髪と青の瞳、鋭い眼光でまだまだ現役を感じさせるお方だった。
「ガヴェイン、ありがとう…改めてありがとう。その方にはいくら礼を言っても足りない」
「はっ……俺に…え? あ、はい…こちらこそ、そのようなお言葉、最上の喜びでございます」
よく分からないがいきなりお礼を言われた。
今日は俺がありがとうございますと言う日のはずだ。
なぜこんな状況になっているのか緊張で吐きそうで何も考えられない。
「我が国の王室では伝統的に後継者を争わせないといけない。私自身葛藤があったが、そのようにするしかなかった。だが、エイドリアンのことは気がかりだった。戻ってきてくれたのはガヴェイン、其方のおかげだ」
「そ…そのようなっ、私は何も……」
「王女のことも含めて、其方には感謝しかない。エイドリアンから話を聞いたときは驚いたが、私は二人の幸せを尊重することにした。末長く、エイドリアンのことをよろしく頼む」
騎士に任命するにはずいぶんと花婿の父みたいな発言だなと思っていたら、剣を抜いた陛下が俺の両肩に剣を載せてきた。
これに関しては、任命っぽい流れでちょっとホッとしたが次の台詞に度肝を抜かれた。
「ガヴェインを聖騎士団騎士団長、及び王太子エイドリアンの専属騎士、及びエイドリアンの生涯の伴侶としてここに認める」
ワァーー! という歓声と拍手が一斉に起こって、俺は陛下から言われた言葉を頭の中で繰り返していた。
前半は分かる、しかし…後半の言葉はいったい……。
「そろそろいいですか? 私からも紹介させてください」
俺の横にはいつの間にかエディが立っていて、俺の手を握ってきた。
「皆の者、ガヴェインは私の専属騎士であり、私の生涯を共にする最愛の人だ。今日この日、この場所で私達の結婚を宣言する!」
またもや盛大な拍手と歓声、おめでとうと叫ぶ声まで聞こえてきた。
何も考えられなくて魂の抜けていた俺は、手の甲にちゅっとキスをされて我に返った。
「だっ…おまっ…、俺と結婚!? 王子だろう、どうするんだ? 後継問題とか色々あるだろう!」
「あー、その辺は大丈夫、王女は六人もいるし、そこから優秀な子を選べばいいから。跡継ぎとか争わせるくせに、そういうところあまり拘らないんだよね。実力と運があればいいって」
「護衛騎士と結婚なんて…そんなのアリなのか? 周りはみんな納得して……」
「ごちゃごちゃうるさいな、ガヴェインは。俺と結婚したくないの?」
「そっ…そんなの………」
エディと恋人同士になってからずっと考えていたことだ。
好きで好きで死ぬほど好きだけど、立場を考えたら、いつかはエディは国のために正しい選択をしなくてはいけない時がくる。
そうなった時、俺は潔く身を引かないといけない。
耐えられない、苦しくてたまらないと思ったが、エディの幸せを考えたら、俺はいつまでも側にいられるだけで十分だと思っていた。
それなのに………
それなのに…
そんなの
「したいに…決まってる。エディ…エディを愛しているんだから……」
「ああ、その言葉を待ってた。最高に幸せだよ」
「ば…か…ろう、こんな…サプライズ。それは…俺の…台詞だ」
涙がぼろぼろと流れてきてまともに声が出せなかった。
それでも分かってくれたのか、エディは嬉しそうな顔で微笑んだ。
「そういえばガヴェイン、お前の出自を調査する過程で、父親について貴族であることが分かったのだが……、まあ、それは後にするか……」
見つめ合う俺達を見て、気を使った陛下が微笑みながら離れていった。
水に浮かんできた泡ばかり拾い集めていたような俺の恋愛。
初めて心の奥深くに触れて、本気で溺れてもいいと思った相手。
この世の富も名誉も絶世の美女も何もいらない。
欲しいのはエディだけ。
それを教えてくれた最初で最後の人。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった俺に、エディは口付けた。
鳴り止まない拍手。
どんどん深くなる口付け。
幸せを噛みしめて、ちょっと酸欠になりながら、溢れるほどの愛に包まれて涙を流した。
幸せの涙は温かい。
この温もりがずっと続くように。
そう願いながら目を閉じた。
※※※
「そういえば。この前の手合わせの時、俺エディに勝ったよな?」
静かだから何か話せと言われたので、執務机に座って書類を眺めているエディに声をかけた。
「ああ、あれね。途中でシャツが破れてガヴェインの乳首が丸見えになったんだ。あんなラッキースケベを見せられて、動揺しないやつはいないよ」
「………とにかく、勝ちは勝ちだ。あの約束覚えているか?」
若干卑怯な勝ちではあるが、やっと俺の念願が叶った。そして、俺は昔の約束を執念深く覚えていた。
「……もしかして、何でも一つ願いをってやつ? へぇ、ガヴェインはこんな最高の男を手にしてもまだ望みがあるのか…」
カシャリと音がしてエディが書類を置いて立ち上がったのが分かった。
「いいよ。巨万の富? 金貨を山にしてあげようか? あっ、絶世の美女はダメだからね」
「いやいやいや、そうじゃなくて。その……一度くらい、俺が上になってみたいな、なんて……」
「ああ、ソッチのこと? ふふっ、そんなに騎乗位がしたかったの? ……じゃあ、今夜はたくさん突き上げてあげるよ」
「違う、そうじゃなくて、役目のことで……んあっ!」
ドアの前で立っている俺に近寄ってきたエディは、さっと後ろに手を回して尻の蕾を服の上から指で押してきた。
「本当にソッチがやりたいの? ここにぶち込まれないとイケない体のくせに……」
「ばっ…昼間っから…やめろ…っっ、むっ…くっっ……あっ…、ぐりぐりするなっ!」
「気持ちいいところ、たくさん突き上げてあげるのに……本当にいいの?」
「ううっ…う……はっ……ぁ……」
「さあ、ガヴェインの願いは?」
「………くっ……くそっ、…き…じ…ょ…ぅぃ」
「ガヴェイン。これだから可愛くてしょうがない」
ニヤッと笑ったエディは俺の手を掴んで、隣の休憩用の部屋に通じるドアを開けた。
「はっ…まさか、おい、今から?」
「そっ、すぐヤリたくなっちゃった。今日の仕事は全部終わったしー」
「いくらなんでも…真昼間に…明るすぎる。恥ずかっ…だっ誰か来たら…」
「ガヴェインの願い、たくさん叶えてあげるよ。…泣かせてあげる…たっぷりとね」
ぞぞっと背中に寒気が走って、逃げ出そうとした俺の腰をエディは馬鹿力で掴んできた。
「はいはい、いい子。おいで」
「だっあっっ、ばっ…やめっ………あっ……」
今や泣く子も黙る鬼の騎士団長、団員泣かせのこの俺を泣かせることができるのはこの男しかいない。
後で聞いた話だが、
この日、エディの執務室に書類を持ってきた者は、今日はダメだとため息をついて回れ右して帰っていったそうだ。
恥ずかしくて顔を上げて歩けなくなるので、当分仕事中は禁止だと言った俺の言葉に、分かったと素直に返事をしたエディのこめかみが少し揺れていたのは見なかったことにする。
□終□
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