05.卒業2

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「ちょっとちょっと、アレ誰?」 「え、誰かのお兄さん?反則なんですけど。」 「っていうか、彼氏とかだったらぶっ飛ばす。」 「卒業式どーでもいいから、今すぐあっちの席行きたい。」 「こっから狙って撮れないかな。」 「盗撮か。」 「サリー、どうすんの?果てしなく物騒な騒ぎになってるよ?」 と佑香に肘でつつかれて、 「え、何が?」 隣ののりちゃんと喋っていた頭を後ろに向けると、ひときわ背の高い姿が目に飛び込んできた。式次第にでも目を落としているのか、俯いた前髪が目に入る。 ガタンッ。 もの凄く音が響いてしまった。立ち上がった私に皆の目が集まる。でもそんなの、全然。それよりも、ゆっくりと頭を上げてこっちを面白そうに見た焦げ茶色の瞳だけを受け止める。よお。口を動かして、それからいつものようにふてぶてしく口角を上げている。 何で、どうして?一言も言ってなかった、昨日の電話では。今日だって土曜日だけど、当たり前にバレーの練習とか先輩の研究の手伝いとかあるって、そう言ってなかったっけ?それになに、そのスーツ。あたし全然知らない。ネイビーだけは知ってる。いつもの空の色だもの。でもシャツとかネクタイとかって。 茫然と立ちすくんでいると、 「ちょ、いい加減座りなって。先生、こっちに来かけてるよ。」 と慌てた佑香にガウンを引っ張られてようやく身体が動いた。と同時にザワザワした声とか咳払いの音とかが耳に飛び込んできた。空を見ていた間、無音だった。空しか存在しない空間だった。 「やっばー、バレー馬鹿の彼氏、破壊力ハンパないね。スーツとかってなに。」 のりちゃんが上気した顔を扇いでいる。 「夢野さん、大丈夫ですか?」 会場係の佐山先生が、心配そうな顔をして私たちの座席の横に来た。 「あ、大丈夫です。何でもありません。」 慌てて顔の前で手を振ると、 「そう?なら良かった。もうすぐ式始まるからね。」 そう言って先生はまたスタスタと後ろに戻って行った。うちの先生たちは移動が速い。皆スタスタとあっという間にそばに来たりいなくなったりする。ナース軍団だ。 バカ空。もう、何で本当に。素敵過ぎて息が止まりそうなんだけど。
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