05.卒業2

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「まさか今日上郡君に会えるなんて思わなかったわ。理沙、全然言わないから。」 「あ、いや、突然なんで。理沙子さんも知らなかったんです。すみません、勝手に。」 「あらあ、最高のサプライズじゃない。もうほんとに妬けちゃうわ。」 心なしかママのニコニコさが倍増している気がする。 「君が妬けてどうするんだよ。上郡君、私たちはこの後食事に行くんですが、一緒にどうですか?」 とパパが空に訊いている。 「ご家族だけのお祝いにお邪魔でなければ是非。僕もご挨拶したいことがありますし。」 え、ご挨拶って何?空、またフライングなの? 背後では、 「うっそ、マジ、あの人サリー関連?」 「え、じゃあサリーのお兄さん?」 「バッカ、あの感じのどこが家族に見えんのよ?」 「だってサリーの彼って、バレー馬鹿でしょ?」 「そうそうジャージしか来てないってイメージの。で、いっつもサーブしてるみたいな?」 「は、なんだそれ。でも確かになんかワニワニってしてるイメージ?もろ筋肉オンリーみたいな。」 「じゃあ、アレ全然違うじゃん。ああ、いとことか?」 「ああ、かもね。いとこいとこ。いとこでも羨まし過ぎー。」 大騒ぎが聞こえてくる、はっきりと。爆笑しそうになった瞬間、背中に手を感じて思わず飛び上がりそうになってしまった。 「え、えええええーっ。」 勿論背後からは絶叫が聞こえて来た。 「あらあら大人気ね、上郡君。」 「そうだな。羨ましい限りだ。」 「あら、あなただって私の友だちに人気だったじゃない?」 「ん、そうか?そうだったかな。」 何だか両親の話が照れくさい方向へ行きそうだ。背中も燃えそうに熱い。 「じゃあ私たちは正面玄関で待ってるから。理沙は着替えてらっしゃいよ。」 「え、あ、うん。」 それからようやく私は隣の人を見上げた。ああ、やっぱりすぐ目を逸らしたくなっちゃうくらいカッコいい。どうしよう。 「空は?どうする、ママたちと一緒にいる?」 何とか声を出すと、 「ああ、うん。ご一緒してもいいですか?」 とパパたちに訊いている。勿論よ、じゃあ行きましょう、とママの明るい声が聞こえてようやく背中から手が離れた。 三人の後ろ姿をボーっとして見送っていたら、ガシッと両肩を掴まれた。目の前にも何人かが腕組みをして立っている。 「で、あれがサリーの言うバレー馬鹿なわけ?」 その言葉で尋問の火ぶたが切られた。 両親が待ってるしと言うと、彼氏もでしょうがっと何故か怒られながら、ようやく皆から解放された。慌てて階段を駆け上がり、廊下ですれ違う先生方に最後の挨拶をしながら玄関に走り込んだ。 「ごめんっ、おまたせ。」 膝に手をついて息をしていると、 「そう、風美さん相変わらずお元気なのね、嬉しい、お会いしたいわあ。」 「風美さんって、理沙子がいつもお世話になってる婦長さんか?」 「あらやだ、もう。今は師長でしょ?でも風美さんは看護部長。あなた風に言えば総婦長さんよ。」 「そうか、そりゃ凄い。」 「いえ、母は何も変わりません。そそっかしいし。勢いだけでやってるんじゃないかと。」 空が世間話などしている、あの空が。面倒くさがりのめの字もない。何なんだ、この男は。 「さあ、ってあら理沙来てたの?」 ママの驚いた声を聞いて気が抜けた。こっちはもう待たせてるから気が気じゃなかったのに。 「よし、じゃあ行くか。上郡君、好き嫌いはあるかな?」 「いいえ、何でも。」 「テーブルまで食べるよ。」 口を出せば、ようやくいつもの空らしくジロリと視線を寄こした。 「はは、そうか。そりゃいい。」 そう言って何だか上機嫌の両親の後からついていった。 手が触れない。いつものように大きく包み込まれない。あまりにも慣れ過ぎていて、そうじゃないと歩けないような気にさえなってくる。実際二度立ち止まってしまった。驚いたように空も立ち止まったけれど、私が頭を振って「右左右左」と言って歩き始めると、怪訝そうに首を傾げながらついてきた。スーツ姿の空が隣を歩く。いつものネイビーなのに全然いつもじゃなかった。
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