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「まさか今日上郡君に会えるなんて思わなかったわ。理沙、全然言わないから。」
「あ、いや、突然なんで。理沙子さんも知らなかったんです。すみません、勝手に。」
「あらあ、最高のサプライズじゃない。もうほんとに妬けちゃうわ。」
心なしかママのニコニコさが倍増している気がする。
「君が妬けてどうするんだよ。上郡君、私たちはこの後食事に行くんですが、一緒にどうですか?」
とパパが空に訊いている。
「ご家族だけのお祝いにお邪魔でなければ是非。僕もご挨拶したいことがありますし。」
え、ご挨拶って何?空、またフライングなの?
背後では、
「うっそ、マジ、あの人サリー関連?」
「え、じゃあサリーのお兄さん?」
「バッカ、あの感じのどこが家族に見えんのよ?」
「だってサリーの彼って、バレー馬鹿でしょ?」
「そうそうジャージしか来てないってイメージの。で、いっつもサーブしてるみたいな?」
「は、なんだそれ。でも確かになんかワニワニってしてるイメージ?もろ筋肉オンリーみたいな。」
「じゃあ、アレ全然違うじゃん。ああ、いとことか?」
「ああ、かもね。いとこいとこ。いとこでも羨まし過ぎー。」
大騒ぎが聞こえてくる、はっきりと。爆笑しそうになった瞬間、背中に手を感じて思わず飛び上がりそうになってしまった。
「え、えええええーっ。」
勿論背後からは絶叫が聞こえて来た。
「あらあら大人気ね、上郡君。」
「そうだな。羨ましい限りだ。」
「あら、あなただって私の友だちに人気だったじゃない?」
「ん、そうか?そうだったかな。」
何だか両親の話が照れくさい方向へ行きそうだ。背中も燃えそうに熱い。
「じゃあ私たちは正面玄関で待ってるから。理沙は着替えてらっしゃいよ。」
「え、あ、うん。」
それからようやく私は隣の人を見上げた。ああ、やっぱりすぐ目を逸らしたくなっちゃうくらいカッコいい。どうしよう。
「空は?どうする、ママたちと一緒にいる?」
何とか声を出すと、
「ああ、うん。ご一緒してもいいですか?」
とパパたちに訊いている。勿論よ、じゃあ行きましょう、とママの明るい声が聞こえてようやく背中から手が離れた。
三人の後ろ姿をボーっとして見送っていたら、ガシッと両肩を掴まれた。目の前にも何人かが腕組みをして立っている。
「で、あれがサリーの言うバレー馬鹿なわけ?」
その言葉で尋問の火ぶたが切られた。
両親が待ってるしと言うと、彼氏もでしょうがっと何故か怒られながら、ようやく皆から解放された。慌てて階段を駆け上がり、廊下ですれ違う先生方に最後の挨拶をしながら玄関に走り込んだ。
「ごめんっ、おまたせ。」
膝に手をついて息をしていると、
「そう、風美さん相変わらずお元気なのね、嬉しい、お会いしたいわあ。」
「風美さんって、理沙子がいつもお世話になってる婦長さんか?」
「あらやだ、もう。今は師長でしょ?でも風美さんは看護部長。あなた風に言えば総婦長さんよ。」
「そうか、そりゃ凄い。」
「いえ、母は何も変わりません。そそっかしいし。勢いだけでやってるんじゃないかと。」
空がにこやかに世間話などしている、あの空が。面倒くさがりのめの字もない。何なんだ、この男は。
「さあ、ってあら理沙来てたの?」
ママの驚いた声を聞いて気が抜けた。こっちはもう待たせてるから気が気じゃなかったのに。
「よし、じゃあ行くか。上郡君、好き嫌いはあるかな?」
「いいえ、何でも。」
「テーブルまで食べるよ。」
口を出せば、ようやくいつもの空らしくジロリと視線を寄こした。
「はは、そうか。そりゃいい。」
そう言って何だか上機嫌の両親の後からついていった。
手が触れない。いつものように大きく包み込まれない。あまりにも慣れ過ぎていて、そうじゃないと歩けないような気にさえなってくる。実際二度立ち止まってしまった。驚いたように空も立ち止まったけれど、私が頭を振って「右左右左」と言って歩き始めると、怪訝そうに首を傾げながらついてきた。スーツ姿の空が隣を歩く。いつものネイビーなのに全然いつもじゃなかった。
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