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プロローグ
「――植物状態を一時的に治せる蝋燭だって?」
星々が濃紺の空に輝く深夜。仄かに明るい病室内に、若い男――夏樹の訝しむ声が響いた。
彼の後ろには患者衣を着た女性の横たわる白いベッド。
隣には目を丸めて口元を両手で覆っている若い女性。
そして、見開かれた双眸の向かいには大きな銀色の蝋燭を両手に乗せた金髪白翼の女天使が佇んでいた。
「えぇ。もっとも、天の決まりにより、たった十二時間程しか効果はありませんが……今の彼女にはそれだけで十分でしょう」
天使はベッドに横たわる女性患者に慈みの視線を送った後、ゆっくりと瞼を下ろし、再びその目を夏樹達に向けた。
「お受け取り下さい。神からの贈り物です」
差し出される手。
夏樹と若い女性は互いに顔を見合わせる。
困惑の表情で夏樹の顔を見つめる若い女性がその胸元に拳を握りしめる。
夏樹はそんな彼女に対してこくりと頷くと天使に向き直り、銀の蝋燭へと手を伸ばした。
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