テレフォン

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「でね、この前の日曜日にもらったヘアオイルをさっそくつけてみたんだけど、友達にいい匂いだねって褒められたの。うれしかった」 「よかった。誕生日プレゼント、悩んだかいがあったよ」 「もらったとき、本当にうれしかったよ。ありがとね。大切に使わせて頂いてます」 本当に大切。 あなたからもらうものなら、なんでも大切なの。 こんな、なんでもない会話も。 遠くのあなたの声を、耳元で感じられるこの時間も。 大人なあなたは、いつだって遠い存在で、私のことをちっともそういうふうには見てくれないけれど。 とっても、大好きなの―― 「それと、お願いがあるんだけど、来週の帰省日に勉強をまた教えてくれないかな?  数学の小テストで、わからないところがあって。他の子も、つまづいてたから聞けなくて…」 「いつもお願いは勉強のことばっかりだなあ。いいよ。また教えてあげよう」 高校受験の時からお世話になっているから、相変わらずだと思われてるんだろうなあ。 世話焼きな人だから、断らないって分かっている。 そんな優しさに付け込んでいる少しの罪悪感と、また会える約束ができたうれしさを感じながら。 「やったあ。ありがとう。  よろしくお願いします。」 膝を抱えている私。 優しさに付け込んでいるから、結局未だに “生徒” と “先生” の関係から抜け出せないでいるのは、わかってる。 墓穴を掘って、掘り続けて、今の関係に甘えていることは。 もうすぐ消灯時間になる。 「そろそろ時間だね」 もう少し。 「うん...。  電話、楽しかった。  また次の土曜日に。」 あともう少し。 「それじゃあ、おやすみ」 あともう少し、このままで。 「おやすみなさい」 あなたの声の余韻に浸りながら、甘い香りに包まれて、今夜もあなたの夢を見る。
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