記念日に手向けるディアスシア

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 気付いたら一緒にいた。どうしてあの人だったのか、そう訊かれたら―― 「ずっと探していた、理想の人だから」  と答えるだろう。  でも、あの人と一緒にいると幸せになれないことは分かっているから、どこかで別れないといけない。そう思えば思う程、想いは募っていく。友達に相談したら―― 「別れなければいいんじゃないかな?」  と言われる。  それだと困ると伝えると、首を傾げられてしまう。 「想いが通じてるなら、いいことだと思う」  そう言われると更に困る。  確かに私は、あの人のことを殺したい程に想っている。私にとって大事な日――一種の記念日まであと少し。その日になったら彼に伝えるつもり。  どうして私が貴方に惹かれたのか、どうしてこんなに想うようになったのか、全て教える。  時計の針が小さな音を立てて、記念日が近付くのを知らせる。  日付が変わる前から彼を呼び出して、珍しく我が儘を口にした。 「もう少しだけ……一緒にいて欲しい」  私がこんなことを言うなんて、彼と一緒にいて初めてだった。彼は私の我が儘を聞き入れてくれた。  何かあったのかと尋ねられて、父が亡くなったと病院から連絡があったことを伝えると、 「大変だったね」  と慰めてくれた。  なんて優しいんだろうか、なんてお人好しなのか、なんて愚かなんだろうか――  時計の針が十二で揃い、日付が変わったことを知らせる。セットしていたスマホのアラームが、けたたましい音を奏でた。彼は驚き、あまりのうるささに両手で耳を塞ぐ。  隙だらけの彼に後ろから抱きつき、力強く抱き締めた。彼はビクリと身体を震わせる。私の腕を掴み、爪を立てる。私は痛みに耐えて、抱きしめ続けた。夢中で、彼が動かなくなるまでずっと……。  お腹がズキズキと痛む。お腹を擦ると力なく彼の身体が、床に倒れ込む。背中には黒い柄の包丁が刺さってる。傷口から血が溢れて、フローリングに広がっていく。足元には大きな水溜まりが出来た。 「間に合って良かった……待たせてごめんね」  彼から離れて、スマホを手に取る。アラーム画面には、私そっくりの女の子の画像が表示されていた。  この子は、私の妹。ストーカー被害に遭っていたけど、誰も相手にしなかった。
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