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 死後の世界――ここ天国で、わたしたちは俗に『生神(イキガミ)』と呼ばれている。  なんだか神々(こうごう)しい響きではあるけれど、実際は単なる汚れ役、汚れ職であり、『天界なりたくない職業ランキング』ではなんと5年も連続で1位を取っているありさまだった。 ――ちなみに生神の存在理由は、ただひとつ。『死にたがっている魂に、生きるすばらしさを伝える事』。  基本的に生き物は死後、魂だけの存在となってここ天国で転生の準備をし、その瞬間(とき)を静かに待っている。  しかし中には、現世でのつらい過去や経験から、「転生したくない」と訴える魂も少なからずいた。  そういった魂たちに、わたしたち生神は日々『(せい)』の大切さを説いている。生きるという事がいかに美しくて尊い事か、その重要性を一生懸命説明するのである。  それを聞いて、納得してくれる魂は多い。けれど最後まで首を縦に振ってくれなかった場合、その魂はやがて無にかえる。本当の意味で消滅する事となってしまうのである。  死の先の、本当の、死。――それが執行される時以上のつらさを、わたしは他に知らない。  そんな悲しい事は、本来あってはならない。なんとしても防がなければならない。  だからこそ、わたしは生神になった。 ――でも。それなのに。  わたしは今日も、救えなかった魂を、またひとつ(おく)ったのだった。
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