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「……で。のこのこと帰って来たわけか」  ゴトウさんはわたしの方には目もくれず、机の上で書類整理をしながらそう言う。  わたしは目をつむり、「お願いします!」と頭を下げた。 「……お願い?」 「はい。とりあえず明日、また会う約束をしました。あの様子では、多分明日が彼を説得出来る、最後の機会になると思います。 だから……それまでに、わたしはユイさんを見つけたいんです」  ゴトウさんは、返事をしない。かまわず、わたしは話を続けた。 「彼を説得出来るのは、おそらくユイさんしかいません。ユイさんが彼と話をしてくれれば、きっと彼は転生を受け入れてくれます。 だから……どうか、力を貸してください。明日までに、ユイさんの魂がいったいどこにいるのか、その居場所をつきとめたいんです」  顔を上げ、ゴトウさんの顔を見る。ゴトウさんは、ふー、と息を吐き、タバコを咥えた。  じっと返事を待つ。――けれど。  やがてゴトウさんは、「無理だな」と切り捨てるように言った。  じわ、と胸が締めつけられる。  立ちつくしていると、ゴトウさんはもう1度、「聞こえなかったか? 無理だ」と言った。 「どうして……無理、なんですか」 「そんなもん、訊かなくても分かるだろ。そのユイさんってヒトが死んだのは、おそらく相当前だ。だったらすでに転生の最終準備段階に入っているはずだし、もう天界(ここ)にはいない。 ……逆に、万が一まだ天界に残っていたとして、何億と漂ってる魂の中から、どうやってそいつを1日足らずで見つけ出すってんだ? 天界には、気の利いたデータベースもなければ、便利な情報屋なんてのもいねえぞ」 「……でも……! ……だからって、何もせずに諦めていいはずないじゃないですかっ!」  わたしは、声を張り上げた。同時に、今まで救えなかった(ヒト)たちの事が頭の中を回り、意識していたわけでもないのに、目から涙がぼろぼろと溢れてくる。  けれど、ゴトウさんは俯きがちに冷たい目をしている。それは紛れもなく、諦めている目だった。  あと少しの時間で、ユイさんを見つけ出す。……それは確かに、現実的ではないかもしれない。都合良く奇跡が起きる、というような事も、きっと多分、ないのだろう。  でも、なら、どうすればいいのだ。  このまま黙って、諦めるしかないのか。 「……そんなの……嫌…………」  震える声で言う。するとゴトウさんは、「なら、なんとかするしかないだろ」と力強く言った。 「……その魂を救えるか否か。そして自身が納得出来るか否か。生神にとって大事なのは、それだけだ。 結果がどうあれ、そこには正解も間違いもない。だから、全力でおまえなりの答えを出してみろ」
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