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 次の日、事務所に行くと、ゴトウさんが静かに笑みを向けてきた。 「なんですか、気持ち悪い。セクハラで訴えますよ」  わたしが言うと、ゴトウさんは机に肘をつき、「なんだよ。せっかく褒めてやろうと思ったのに」と顎をしゃくれさせる。  その顔は本当に気持ち悪くて、いつもなら灰皿でも投げているところだったのだけれど、幸い今朝はとても気分が良かったので、爽やかな気持ちで着席する事が出来たのだった。 「よくやったな。あの魂は……きっと俺なら、助けられなかった」  ゴトウさんの言葉は、素直に嬉しかった。  わたしでなければ彼を救えなかった――それはわたしが生神として魂を救ったという、確かな証となり()る言葉だと思った。 「……ありがとうございます」  頭を下げる。するとゴトウさんは、「ところで」と声を発した。 「今日は、仕事しに来たのか? それとも、荷物整理のために来たのか?」 「――あ」  そこまで言われて、辞表を出した事を今更のように思い出す。  ゴトウさんに目を向けると、彼は『今すぐ破るぞ』と言わんばかりの持ち方で辞表を握っていたので――わたしは「どうぞ。お好きなように」と笑った。 「……いいんだな。本当に、大丈夫なんだな」 「ええ」 「……。……へっ、なんだよ。うるさいのがいなくなると思って喜んでたのによ」 「そのわりには、やけに嬉しそうですね」 「なわけあるか。ちゃんとな、退職金も用意しといたんだぞ」 「じゃあ今日辺り、そのお金でどこか美味しい店にでも連れてってください」 「しゃーねーなー」  びり、びり、びり、という音が、事務所の中に響き渡る。  わたしの書いた辞表は粉々になり、やがて丸められたそれは、ゴミ箱に綺麗に吸い込まれていった。  ……いつまでかは、分からないけれど。  でも、もう少しだけ――生神を続けてみようと思う。
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