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プルルプルル
電話が鳴った。取らなければならない電話だということは重々承知している。けれども、この瞬間だけは、待ってほしい。もうちょっとだけ。
暗い室内で手探りし、私の指先はスイッチに触れた。しかし室内は未だ暗いままだった。
彼の少しおどけたような声が耳に入る。
「回さないと明るくならないよ。ほら。」
彼がスイッチをひねると、オレンジ色の光が強くなっていった。電話が再び鳴る。彼の腕が伸び、電話に応える。
「もうちょっとだけ。はい、大丈夫です。」
私は彼の顔を見ながら、そっけなくささやいた。
「もう行かなきゃ。先にお金渡しておくから、残りはひとりで楽しんでね。」
彼は残念な顔を浮かべていたけれど、私にはもう時間がない。
「気をつけてね。」
「じゃあね。」
「お金はいいよ。その代わり。ううんなんでもない。おごるよ。」
彼は何か言いたそうだったけど、我慢しているのかな。彼が言いたかった言葉は、きっと私も思っていた言葉。
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