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俺が若い頃は――――。
こんな台詞を僕の祖父がした事は無かった。
いつもニコニコと笑い、声を荒らげる事もしない優しい祖父だ。
だから僕は祖父が大好きだった。
小谷三郎(こたに さぶろう)通称サブちゃん
近所の人はみんな、サブちゃんか、サブじぃと呼んでいて僕もいつしかサブじぃと呼ぶようになっていた。
「サブじぃ、お小遣いちょうだい」
「もう無いんか。少しだけだぞ」
そう言って折り畳み財布から小さくなったお札を二枚取り出した。
「ゆり子さんに怒られるのは儂なんだがなぁ」
「ごめんね、母さんにはバレないようにするからさ」
いつも同じやりとりだ。
幾度となく母さんに小言を言われても祖父は僕にお小遣いをくれる。
困った表情を見せつつもどこか嬉しそうに耳の後ろをポリポリと掻くのが父さんと似ている。
「全く……何にそんなにつぎ込んでいるんだ?」
「ふっふっふ。教えて欲しければもう一枚かな!」
「んな……儂の少ない年金を……」
「ごめんごめん冗談だって。あ、また来週くるからね」
「もうお小遣いは無しだぞ」
「わかってるよ」
そう言って僕は質問にも答えないで部屋を出た。
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