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サブじぃに会った五日後、母から電話が来た。
「おじいちゃんが救急車で病院に……」
頭が真っ白になった。
「今、運ばれてるって。先に病院に行くからアンタも後で来れる? 父さんはまだ仕事だって……」
母さんの声は聞こえてはいるけど頭には入らなかった。
「え、大丈夫なの?」
「わからないわ。隣の田中さんがユイちゃん家の前で血を流して倒れてたって電話くれたの。たまたま近くを通った旦那さんが付き添ってくれてるって……
……聞いてるの? ひとまず向かうからアンタも来なさいね」
「……そっか」
電話が切れて少しすると、ようやく頭が追いついたのか小さな声が漏れた。
サブじぃもいい歳だもんな。
そう思ったら幼い頃からの記憶が頭に浮かでくる。
子供の頃に障子に穴を開けてしまったとき、
「おっ! ここはじいちゃんがもらっちゃうぞ!」って一緒に穴を開けて遊んでくれた。
小学生の頃、テストで満点を取って自慢したら、
「よくやった! さすが儂の孫だ!」って誉めてくれて、
「これで満足したらいかんな。儂の孫ならもっと取れるはずだからな!」と励ましてもくれた。
中学で友達と喧嘩して泣いたときは、
「その子が嫌いか? 嫌いになったなら相手にするな。でも仲良くしたいならお前から謝れ。謝った方がスッキリするし友達を許せる」って慰めてくれた。
高校に入って、初めて告白した。それで振られて落ち込んでた時には、
「よく言った。言えずに後悔する男は多い。また気持ちを伝えたって良いんだ。儂だって婆さんには四回告白して今がある。だが相手をよく見ておけ、本気で嫌がる相手に何度もしたらただ嫌われて終わりだ」
と、勇気をくれて窘めてもくれた。
だから、
『クソジジイ』なんて言った事は無い。
だけど、
『ありがとう』も言った事が無かった。
もちろん、言葉自体は発したけれど、形式に囚われた感情の無い『ありがとう』じゃ意味がない。
――――伝えなきゃいけない。伝えたい。
「悪い。今日のカラオケパスで」
僕はゲーセンから飛び出した。
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