2.二人だけのイルミネーション

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◆◆◆◆◆ やってきたクリスマス当日ーーーー。 蜂谷は右京をグランドホテルに車で送るために店にやってきた。 「―――あれ」 店先に暖簾が掛かっていない。 入り口ドアに何か貼り紙があった。 「――――?」 ポケットに手を突っ込みながら覗き込むと、そこには「臨時休業」の字が躍っていた。 「んだ?これ」 蜂谷は裏から自宅に回り込むと、インターフォンを鳴らすなりドスドスと上がり込んでいった。 いつもは台所付近でうろうろしている雅江の姿も見えない。 「右京ー!?」 「ああ!?」 叫ぶと奥から右京が出てきた。 「なんだ、その格好………」 いつのまに新調したのか、光沢のあるグレーのスリーピーススーツに、シルバーのネクタイを合わせ、金色のポケットチーフが覗いている。 いつもは下ろしている横髪を後ろに流していることで、いつもよりぐっと大人っぽく見えた。 「―――あれ?メールしたんだけど見なかったか?」 右京はあっけにとられている蜂谷を横目に、名刺入れの中身を確かめながら内ポケットに入れた。 「昨日と一昨日に配達頑張ったから、今日は臨時休業にしたんだ。ばあちゃんもなんか友達の家のパーティーに呼ばれたとか言ってさ」 「……は?」 「だからお前も自由に過ごしていいよ。どうせ大学の飲み会とかあんだろ?」 「……そんなのとっくに断ったし」 「今からでも行くって言えばいいじゃん」 言いながら右京は手を合わせた。 「悪い、蜂谷。醸造所に手帳忘れた!とってきてくんない?」 「………なんて人使いの荒い……」 蜂谷は醸造所の作業台から手帳をとってくると右京に渡した。
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