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「ケイ!!」
仕事から帰ってきたフィオーレは帰ってくるなり、リビングのソファに座ってイタリアのイルミネーション特集番組を眺めていた猪股に抱きついた。
「なんだよ。帰って早々……」
猪股が驚いてその長い癖毛を撫でると、彼はショッキングピンクの袋を見せつけてきた。
「ーーーナニソレ?」
「知らないの?ポメリージョ・ジェラートだよ!!世界一有名なアイスクリーム屋さんの!!」
「……………」
猪股はその、日本なら絶対デザインしないような奇抜なパッケージを見つめ、瞬きをした。
「仕事のお客さんがくれたんだ!大丈夫だよ、職場の冷凍庫に入れてたから、まだカチンカチン。早く食べよう!!」
そう言うなりフィオーレは立ち上がり、
「今日はどれを使おうかな~」
とご機嫌でアイススプーンを選び始めた。
「……大の男が二人でアイスって。イタリア人ってほんと、アイス好きだよな」
猪股が笑いながら身を起こすと、フィオーレは対面キッチンからキッとこちらを睨んだ。
「違うよ。アイスが好きなんじゃなくて、ジェラートが好きなの!」
なかなかお目にかかれないフィオーレのふくれっ面に思わず笑ってしまう。
「何が違うんだよ」
「いい?ケイ」
彼はやっと十数種類あるアイススプーンから一つを選び出すと、それを掲げながらソファに戻ってきた。
「ジェラートはね、アイスクリームと比べて空気含有率が少ないの。だからものすごく濃いの!」
「―――へえ」
予想外のまともな返答に猪股は首をふりこ人形のように縦に振った。
「さらに乳脂肪分はアイスクリームより少ないから、ヘルシーで胸やけしない。だから長年イタリアをはじめ世界中で愛されているんだよ!」
得意気に語るフィオーレの頭を撫でながら猪股は笑った。
「なるほどね。んでこれが世界最高のジェラート?」
「Giusto!」
フィオーレは得意げに言うと、箱を開けた。
ラズベリーの甘酸っぱい香りが部屋に広がる。
「ケイは初めてだろ?ポメリージョ・ジェラートは」
フィオーレがスプーンを渡しながら言う。
「―――いや」
猪股は渡されたスプーンに逆さまに映った自分の顔を見つめた。
「食べたことあるよ。1回だけ。もう10年も前だけど」
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