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「ごめん、もう1回言ってもらっていい?」
女友達の結衣が、ほっぺに空気を含み、笑いをこらえた顔で有紗を見つめた。
「だから!ポメリージョ・ジェラート!!」
有紗がムキになって大きい声を出すと、結衣を中心とした女子高生4人は、仰け反るように笑った。
「なんで笑うのぉ?今空前のブームを巻き起こしてるジェラート屋さんなんだけどぉ?」
口を尖らせる有紗の肩を結衣がパンパンと叩く。
「ごめんごめん、なんか噛まずに滑らかに言う有紗のドヤ顔が楽しすぎて……」
結衣の言葉に残りの3人がまた笑った。
「ふんっ。羨ましがっても一口も上げないからね!」
宮城有紗は鼻を鳴らしながら4人を順に睨んだ。
今城西駅西口にあるショッピングモールで、イタリア市が開催されており、その目玉ともいえるポメリージョ・ジェラートのアイス券をもらったのだ。
先月アイスクリームの世界一を決める、アイスオブザイヤーで大賞をとったこともあり、ポメリージョ・ジェラートのブースだけ、パニックを避けるため前売り券での販売となっていた。
販売開始早々15分で売り切れた前売り券は、子供会のくじ引き大会の大賞や、商店街の福引の1等賞にも使われ、城西町上げての大騒ぎとなっていた。
「本当は皆で回し食べしようと思ってたのにっ」
有紗は長い髪を垂らしながら机に頬杖をつくとフンと膨れた。
「まあまあ。そう怒らないでよ、有紗」
ひとしきり笑った結衣がいい匂いをさせながら顔を寄せてくる。
「せっかくのクリスマスじゃん?有紗には美味しいアイス、独り占めしてもらいたくて」
「よくゆーよ!」
結衣がこんなに優しく話しかけてくれるなんてそうそうないので、まだ膨れたふりを続けていると、
「でも、彼のことは独り占めなんて、しないよね?」
「―――はあ?彼のこと?」
眉間に皺を寄せた有紗を皆が見下ろす。
「な、何よ……」
「実はね、クリスマスにみんなでカラオケに行こうって話になっててー」
「は?聞いてないんだけど」
「男子もね、誘おうってことになってー」
「はあ?聞いてないんだけど!」
「ーー有紗」
結衣が形のいい唇を有紗に寄せてきた。
「猪股君のこと、誘ってくれるよね?」
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