4.サンタクロースは寝てる間に。

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◆◆◆◆ 保坂には大丈夫だといったものの、24日の金曜日は、すでに子供たちが冬休みに入っているのと、連休をとっている社会人も多いらしく、普段の土日以上の来場があった。 4組の来場アンケートを眺めながら、覚えている限りの情報を書き込んでいく。 「土地あり。予算3,000万。自己資金1000万。他フラット35、希望支払額月5万円以下」 「二世帯住宅。8人家族。風呂、トイレ、キッチン別。リビング・玄関共同」 「インナーガレージ、リビング吹き抜け、螺旋階段に子供部屋3つ」 本当に初来場の客というのは無謀な夢を語っていく。 それをいかに気分を害さずに現実に戻してあげるか。 その上で意識をテレビでやっている奇抜な間取りやお洒落な外観・内観ではなく、機能や性能に持っていくか。 「どんなにお洒落な家でも燃えたり崩れたりしちゃ終わりでしょ?」 そんな言い方をしたら客を怒らせるだけだ。 しかし、 「旦那様が外出中、奥様やお子様を守るのは家ですから。だからファミリーシェルターなんですよ」 と伝えれば良い印象を持たれる可能性は高い。 そこに一番の神経を使う。 どんな客にも失礼のないように。話しやすく、かつ嫌味なく。 神経を研ぎ澄ませながらする接客は、普段同僚や友人と会話しているときの10倍は疲れる。 牧村は、くたくたになった身体をオフィスチェアに凭れさせた。 「牧村、俺も上がるぞ?」 牧村と共に事務所に戻っていた設計長がのびをする。 「あ、お疲れす。いいですよ。展示場と事務所、俺が閉めていくんで」 「そう?じゃ、お言葉に甘えて」 クロークからコートを取り出しながら設計長は笑った。 「まあ、何の予定があるわけでもないけど、今日くらいはな」 「?」 「じゃあ、お疲れさん」 「お疲れ様です」 設計長は微笑みながら帰っていった。 時計を見上げる。最後の客が帰ったのが20時。 まとめていただけなのにあっという間に22時だ。 「あー、ちっ。俺も帰るか」 本番は明日からだ。ここで切り上げないと土日が持たない。 牧村はアンケート用紙をファイルに収めると、戸締りをすべく展示場のブレーカーを上げた。 暗闇の中にきらびやかな展示場が浮かび上がる。 事務所の味気ない白昼色の照明とのギャップに、目がくらむ。 和室、ウッドデッキ、キッチン、リビングまで来たところで、胸ポケットに入れておいたスマートフォンが鳴った。 「ーーーげ」 そのディスプレイに表示された名前を見て思わず呟く。 『おお、悪いな。遅くに』 低く腹に響くような声の主は、 セゾンエスペース八尾首展示場マネージャーの篠崎だった。
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