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「ーーーどうしたんですか?」
『今、ちょっとだけ大丈夫か?』
「ええ。まあ」
牧村はツリーライトのスイッチを押し、ソファのひじ掛けに座った。
『実は相談があってさ』
「俺にすか?」
他に相談する人いないんですか?というニュアンスを込めて言う。
どうも篠崎のことは苦手だ。
新谷とのこともあるし、紫雨とのこともある。
ーーつか、よく考えればこの人、俺の疫病神じゃね?
そして今回は吉里のこともある。
『―――知りたい、ですよ?』
昨夜そう言ってくれた吉里の柔らかい声を思い出す。
今回だけは絶対に、邪魔してほしくない。
『そうだ。お前にだ!』
篠崎はイラつきながらそう言った。
『俺の客の息子夫婦が家を買うことになったんだよ。両親の強い勧めでセゾンで話を進めてたんだけど、今日お嫁ちゃんが泣き出して』
「はあ」
全く興味の湧かない話に、もう一つの耳の穴を穿りながら足を投げ出す。
『実は姑さんの嫁いびりがすごいらしくて。家くらいは自分の好きなメーカーで好きなように建てたいってさ』
「へえ。カワイソウすね」
言うと、篠崎はため息をついた。
『全くだよ。息子さんに話を聞いたら、嫁ちゃんの言うことを尊重するっていうから、俺から上手く両親を説得することになって―――ってそれはいいんだどうでも』
篠崎は咳払いを一つしてから改まって言った。
『その息子夫婦、ミシェルがいいって言うんだよ』
「ほう。お目が高い」
牧村が言うと、電話口の篠崎が舌打ちをした。
『1件紹介してやるって言ってんだ!もっとありがたくへつらえ!』
「えー、だって八尾首遠いすもん」
牧村は手をポケットに突っ込みながら立ち上がった
『話は最後まで聞けよ。その息子夫婦、時庭に住んでんだよ。近いだろ!』
時庭であればここ天賀谷から車で15分とかからない。
確かに、悪い話ではない。
セゾンで話を進めていたって言うことはそれなりに経済力もあるのだろう。
しかも世話になり迷惑までかけた篠崎からの紹介だ。よもや断られるなんてあり得ない。
―――でもなんか、癪に障るなぁ。
そう思いながらも牧村はぐっと息を吸い込んだ。
「ありがとうございます。誠心誠意、対応させていただきます」
『―――初めからそう言えよ。かわいくねえな』
電話口で篠崎が笑う。
『最初だけ俺も同席するから。日程決まったらまた連絡する』
「はい。ありがとうございます」
『あ』
「?」
黙り込んだ篠崎に思わず電話口を見る。
『ーー悪い。忙しすぎて今日がイブだってこと忘れてた』
「は?」
『吉里と一緒にいるんだろ?』
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