スマホが復活するまで

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 あの子と話したい。リオン君の素晴らしさを語り合いたい。でも話しかけられると迷惑かな。というかどういうタイミングでどういう声のかけ方をしたらいいかわからないや。推しがかぶるのイヤかもしれないよね。うーん。  なんて悩んでいる時だった。あの子がスマホを置いた。ため息をつきながら顔を上げた瞬間、あたしと目が合った。 「何?」あの子があたしに言った。切れ長の目に長いまつ毛。やっぱり美人だなー。あたしは自分のスマホを見て、UFOが通り過ぎてることに気が付いた。 「電磁効果だね」あたしは言った。 「そう。ほんと困る」 「結構長いね」あたしは苦笑い。「スマホ使えないのしんどいよねー」 「ポチりたい時とかムカつく」 「わかる。あたしこないだ電磁効果のせいでチケット取り損ねたもん」 「そうなんだ」あの子はつぶやいてちょっとだけ目を逸らす。「もしかして銀河隊?」 「なんでわかったの?」 「うちもあの時電磁効果で取れなかったから」答えてから小さく笑った。あの子のそんな顔を見るのは初めてだったからびっくりした。「それに、あなたいつも友達の前で大声で語ってるでしょ。リオン君推しじゃなきゃネタわかんねーよっていつも思ってた」  なーんだ。あの子はあたしの推し、知ってたんだ。 「あのさ」とあの子が口を開く。「一緒にコンサート行く?」 「え?でも」 「県外に住んでるお姉ちゃんがチケット取ってくれたんだ。いつもふたりでポチってる。電磁効果対策」 「へー、すごい」 「お姉ちゃんと行くつもりで2枚あるんだけど、仕事で行けなくなっちゃったから」 「ほんとに?いいの?」 「うちは推しかぶっても気にしないけど」 「あたしも。むしろ同担と出会えて嬉しい」  ふたりで笑った。ちょっとぎこちないけど、心があったかくなる笑顔。電磁効果も悪くないなって思った。あの子がスマホの画面を見た。 「お、スマホ復活」 「良かったね」なんて言ってみたけど、じつはちょっと残念。まだ話したかった。「あのさ、電磁効果でスマホ使えなくなったらまた話しかけてもいい?」 「何それ。別にいつ話しかけられてもいいんだけど」  そうは言われたけど、あたし、気を許すとすぐウザキャラ化しちゃうからなー。しばらくは電磁効果の間だけ話すぐらいがちょうどいいのかも。スマホが復活するまでの短い時間、またあの子が顔を上げてくれたら話しかけよう。あたしは空を見上げた。
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