episode 1

5/14
前へ
/57ページ
次へ
「熱々ですのでお気をつけくださいませ〜」そう言うと店員は颯爽と去ってゆく。 「さ、食べよっか」 美衣はスプーンを手に取る。 そしてドリアを口に入れながら「熱いー! チーズうまっ!」と黄色い歓喜を上げた。 一方、冴子はすっかり冷めたパスタにフォークをぶっ刺す。 咀嚼しながら我が家に思いを張り巡らせていた。 ――ま、困ったことの一つや二つ……うちだってあるけれども―― 「でもさ、冴子……心配してくれてありがとね。心配してくれたんだよね?」 美衣は、ドリンクバーのおかわりの為に立ち上がった時にそう言った。 「……うん。帰ったら心春ちゃんと話をしてみてよ。またどうなったか教えて」 「うん、そうする。訊いてみるね」 きっと、なんとなく出ちゃったんだろう。 死んじゃえなんて言葉、今どきネットなんかで嫌という程みかけるから。どこからでも覚えてしまう。 こんな事で揉めたくないから。 この街は、若い層が多くて子育て支援の充実した未来づくりになっている。 なんていっても女性の働き方への支援もあるし、LBGTQや障害者の問題にも前向きに対応していて、比較的人気のある街だ。 冴子自身、ここの土地柄がとても気に入ってるし、長く住みたい。家だって購入したし。 出来るだけ揉め事は避けたい。それが本音。 だからこのままランチしてお終いにしようとしたのに……それなのに、冴子は何か引っかかっていた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加