工藤 由香里

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陽斗は、一年生でありながらも、一度言ったことは全て覚えてしまう頭脳をしている。我が息子ながら感心してしまう時がある。先生からも一目置かれているくらいだ。 いまだって、準備を整えて自分で焼いたパンと卵焼きを食べながらテレビのニュースを見て牛乳を飲んでいる。手がかからない。 「ほんとに私の息子かなーって思っちゃう」 それを見ながらつい言葉に出してしまった。 「なに? なんて?」 ネクタイを締めながら訊く明人。 「あんなにしっかりしててすごいなーって」 「あのな、親がぬけてるから子供がしっかりするんだよ」 「あ、そっか」 明人の言葉に感心しながら、由香里は自分の朝準備を始めたのだった。 「ねえ、ママ、フクスケにご飯あげていい?」 フクスケとはハムスターのこと。 どうしても陽斗が飼いたいというから去年から工藤家にいる家族の一員だ。 「いーよー、でもヒマワリの種は帰ってきてからね」 「はーい」 そんなこんなでいつもの時間。 陽斗を見送り、スーツ姿の明人を見送る。そして自分は勤め先のパートへと向かったのだった。 ああ、本当に幸せ者だと思う。 あの時の人生を揺るがすような苦悩は吹き飛んで、今は明るい未来が見えるから。 自分には冴子のような美貌や収入はないし、美衣のような天然の可愛らしさもない。そして二人目の子供には恵まれない運命だけれど、充分に満足している。 私には勿体なすぎるくらいだわ、と小声で呟いた。
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