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高谷 冴子
高谷家の朝は早い。
起業して多忙な主人の為に、経済新聞と情報誌など広いリビングのセンターテーブルに並べるところから冴子の朝は始まる。
自分もヨガのインストラクターをして収入はある方だけど、家庭も両立したいと思うからつい朝から頑張ってしまう。
「ほら、もう起きないとダメよ」
二階の一人部屋で寝ている一人娘の紬を何度も起こして、スクランブルエッグに 晩にタイマーをセットしておいた焼きたてのパン、そしてヨーグルトと手作りバター。更に新鮮なフルーツを真ん中に置いて、「はあっ」と一息つく。
「おはよう、ママ」
やっと主人である幸宏が起きてきた。
長身でまるで俳優のような彼は、いつどこで見てもいい男だわ、と思う。こんなに色香のある男性はどこでお誘いがあるか分からない。分からないからこそ、自分も美しくいたいものだと毎朝感じる。自分はそんな毎日をこよなく愛している。
「はい、紅茶よ。貴方の好きなマヌカハニー入り」
「ありがとう」
幸宏は笑顔で受け取ると、二階から降りてきた紬の姿に目を止めた。
「こら、また遅いじゃないか。いつになったら一人で起きてこられるんだ?」
厳しい声が飛ぶ。
「あー、あなた、紬はまだ一年生なのよ? もうちょっと優しくしてあげて。ね、紬」
「……うん……」怯えたように頷く紬。
「紬、ご挨拶は? パパは同じ歳の頃一人で起きてきてたぞ」
そんな言葉にモゾモゾとパジャマのボタンをいじりながら小さい声で「おはようございます」と口にする紬に幸宏はため息をついた。
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