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「お部屋に今日着ていく服を出してあったでしょ? すぐに着ておいで。ご飯を食べましょ」
出来るだけ優しい声で冴子は言った。
「……ん……」
それでもモジモジと足の指をくねらせながら紬は下を向いていた。サラリと長い黒髪で顔の表情が見えない。
「ん? 紬、どうしたの?」
「……学校、行きたくない」
「え? どうして?」
冴子は思わず幸宏の顔を見た。
まさかそんな言葉が紬から出てくるなんて。
保育園でも一番よく出来るってタイプの子じゃなかったけれど、お友達はきちんと出来た。由香里や美衣のところの子供たちと仲がいい。なにかトラブルでもあったのかしら?
「どうして行きたくないの?」
「んー……心春ちゃんがイジワル言うもん」
あー……と冴子は思った。
美衣のところの長女、心春ちゃんは確かに気が強いところがある。女の子二人でたまに衝突することが昔からあったのだが。
「また穂村さんのとこか」
幸宏は新聞を広げながらため息をつく。
「女の子同士だからねぇ。仕方ないわよ。ね、紬、何があったのか言ってごらん?」
出来るだけ優しく冴子は訊いたのだった。
「ママ、誰にも言わない?」
可愛らしい顔をあげてやっとこちらを見た。
「言わないわよ、約束」
その言葉にほっとした表情を見せる紬。
そして、こう言った。
「あのね、死んじゃえって言われた」
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