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辺りは──ひどい惨状だった。
木々や家々を焼き崩し、それでもまだ赤い炎が燻る様にそこかしこを舐め回している。
熱波に焼かれた地面。
消し炭になって倒れた人々。
饐えた臭い。
最後に生き残っていたこの騎士などは、もはや人間ではないと思わざるを得なかった。
「大人しく地下に隠れていれば助かったものを。
私には理解しかねる」
クククと笑って、男が言うのに──
「──そうね」
魔導士も同じ事を考えたのだろう、目の前でピクリとも動かなくなった『騎士』を見据え、静かに答える。
その横顔はさほどの火傷こそなく、泥にまみれ汚れていた。
端正というよりは、引き締まった凛々しい顔つきの男だった。
さぞ悔しかったのだろう、地面には手で足掻く跡が残る。
魔導士はくるりとそれらに背を向け、口を開く。
「用は済んだわ。
こんな所に長居は無用」
言って男の返答も待たず、転移の呪文を唱える。
後には焼き滅ぼされた村と、死体ばかりが残ったのだった──……。
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