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◆◆◆◆◆
青年はぼんやりとした目で遠くを見つめる。
耳に届くのは窓の外でちゅんちゅん、と鳴く鳥の声。
静かで、のどかな陽気。
風はふうわりと柔らかで──。
とても、先日青年が目にした、あの炎ばかりが支配する世界と同じ世界だとは思えなかった。
あれから、幾日かの時が過ぎ──青年の目には、いくらかの視力が戻り始めていた。
まだ像も結ばず、ぼんやりと霞む様な視界ではあるものの、それだけでも大きな進歩だ。
ヒリヒリとした喉の痛みも随分引いてきている。
以前イーヴェが言っていた『目も喉も以前と同じ程度には治る』という言葉はどうやら本当の事の様だった。
──と。
ふとある気配に気がついて、青年は目だけをそちらへ向ける。
出来るだけ静かに歩こうと努めるような軽い足音。
オリンだ。
手には盆に乗せた水差しや、コップでも持っているのだろうか、慎重な歩みの間にカチャ、カチャといくらか不安定な音が鳴っている。
とん、とオリンが枕元近くのテーブルへ『それ』を置く。
何とはなしに目だけで気配を追うと、オリンが「あっ!」と明るい声を上げた。
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