ー来客

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 高そう……なんて思っていたぼくの目の前に、一枚の名刺が出てきた。 「ほんとは、これをあげたくて、人夢くんを待ってたんだ」  よく見ると名刺ではなかった。お店の宣伝カードだった。 「喫茶ソレイユ」とある。住所と電話番号、幹線道路からの簡単な地図もあった。この幹線道路は、ぼくらの通学路でもある。  ぼくは顔を上げた。  見覚えのある住所をさす。 「ここって……」 「そのお店、ことしの始めくらいからかな、働かせてもらってるの。お兄さんの紹介で」 「お兄さん?」 「そう。『マイディアサン』の」  次郎さんだ。 「人夢くんが好きそうな、いい感じのお店だし。教えてあげたらって。お兄さんも」 「この住所……。霊園近くの、ですよね」 「あ、うん」  ゆかりさんの声が少しだけ沈んだ。でも、次には明るく言ってくれる。 「住所はそうだけど、お店から霊園は見えないし。橋からだと、結構手前にあるんだよ」  いまだに、なにもない日にあそこへ行くのはためらわれる。ぼくにとっては聖域みたいなとこで、簡単には踏み入れない。  ……けれど、いま気になるのはそこじゃない。 「この喫茶店……」  勇気くんの言葉がよぎる。  確かめたいけど、ゆかりさんは勇気くんを知らないし、説明しようにも、どんなお店なのか、詳しいことまでは聞いてなかった。  ……フロマージュは、どこにでもあるメニューだろうし。  そんなふうに、またいろいろと考えているうちに、善之さんがやってきて、ゆかりさんを連れていってしまった。  ゆかりさんは最後に、「だれか、女の子とでも来てよ」なんて置いていったけど、それにも、ぼくはなにも返せなかった。
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