わらしべハウス

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わらしべハウス

宙仁鋲斗(チュウニビョウト)の住まいは、住宅地の中で目立つくらいには大きな一軒家である。 新しいとは言えないが、万人受けしそうなオーソドックス二階建て築38年。 借りているわけでもなく自己所有の、小さな駅ではあるが徒歩8分という好立地のなかなかな住宅だ。 ―――さて、この後の予定はどうなっているんだっけ? ただ自慢の一軒家に鋲斗一人で住むには広過ぎる。 広過ぎる家は手入れが行き届かなく、劣化が早い。 パソコンでツウィッターを開き送信するのは、本日から入居の決まっている相手だ。 “あとどのくらいで着きますか?” “もうすぐ着くと思います!” “分かりました。 お待ちしていますね” ―――この人が一番最初の生贄となるのか。 当然、一人入居ではまだ部屋が余り勿体ない。 他にも決まっている入居者に連絡を入れる。 “あとどのくらいで着きますか?” “あと30分もすれば着くと思います” “分かりました。 お待ちしていますね” “あの、荷物ってもう届いていますか?” “はい。 荷物は既に届いており、部屋まで運んであります” “ありがとうございます” とりあえず部屋はまだまだあるのだが、決まっているのはもう一人。 “あとどのくらいで着きますか?” “一時間で程で着くと思います・・・” “分かりました。 お待ちしていますね” “すみません・・・。 今日は何人の方が来る予定ですか・・・?” “三人の方が見られる予定です。 男性が二人、女性が一人ですね” “分かりました・・・。 ありがとうございます・・・” ―――最後の人、数多の『・・・』が文字上で踊っている。 ―――実際喋っている時に沈黙するのは分かるけど、自信がないのか人と接するのに慣れていないのか。 返信をすると鋲斗は立ち上がった。 家全体の片付けは業者に頼み終えているが、自分の部屋だけは子供の頃からずっとそのままだ。 ―――さて、人が来る前に少しだけ俺の部屋の整理でもしておくか。 鋲斗は高校生であるが、両親は既に他界しており誰もいない。 家は遺産として受け継いだものだった。 ―――この家はどうしても手放したくない。 家族と住んでいた家に愛着があるのは当然だ。 鋲斗の親が亡くなり親戚の家に引き取られそうだったが、それを拒みこの家に住むと決めたのだ。 生命保険その他で相続税の支払いは終えているし、余ったお金もかなりある。 ―――この家は家族との思い出が詰まっている。 ―――誰かに譲るなんてことはできない。 といっても、それを食い潰していればいずれはお金が尽きてしまう。 そこで鋲斗は考えた。 家の空き部屋を貸すことで生計を立てようと。 ―――この家はかなり大きいからたくさんの部屋数がある。 ―――10人以上の子羊たちを呼べるだろう。 ツウィッターで募集をかけたところ早三件が決まった。 その三名が今日来ることになっている。 既にいくらかのお金も入金済みだ。 ただ家自体はいいのだが一つだけ気になることがあり、それが今整理しようと足を運んだ自室なのだ。 ―――俺の部屋は絶対に見られるわけにはいかないからな・・・。 ―――万が一の時用に少しだけ片付けておかないと。 そう思い漆黒の部屋へと足を踏み入れた。 黒く染め上げたドクロや黒い羽を片付けながら考える。 ―――今日から共同生活、か・・・。 ―――どうせなら仲よくしたいところだ。 ―――この中二病もすぐに止めないといけないとは言わないけど、少しずつ。 ―――それとは別に親睦を深めるイベントをしたいな。 自分の身の回りにあるたくさんのモノを見て思った。  ―――・・・そうだ、自分の私物と相手の私物を交換するのはどうだろう? ―――そうしたら距離がグッと近付くかもしれない。 ―――まず初めは俺から始めないと。 ―――そのためには何がいいかな・・・? だがよく見てみると中二病を感じさせるモノばかりで、すぐには選べなかった。 別に中二病であることがバレても駄目というわけではない。 しかし、入居者の自分に対する心証はあまりよくないものとなるだろう。 中二病ではあるが、流石にそれくらい分かる常識はあるのだ。 ―――・・・マズいな。 ―――自分の私物のことを考えていなかった。 頭を悩ませているとインターホンが鳴った。 ―――一人目が来たか。 ―――中二病は絶対表に出すなよ・・・! 決心してから玄関へと向かった。 「初めまして! 今日からお世話になります! 真座紺之介(マザコンノスケ)です!!」 ドアを開けるとキラキラとしたアイドル級のイケメンな青年がそこに立っていた。
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