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血のように赤い花
そして、夜中に、ふとおテムは起き上がり、全裸にナイトガウンを羽織った。
丈一と寝るようになって、しばらく経っていた。
帰るや否や、丈一は寝室に引っ込み、おテムは当然のように身を開いていた。
何故だろう。断続的な気だるさが続いている。
胎内に留まっていた丈一の精が、今、確かに結実したのを感じ、愕然としていた。
まさか。正妻云々も、妊娠云々も、ほぼ彼女の願望と妄想だったのに。
人形を便宜的にとっているが、おテムの本質はベゴニア。
本当に、妊娠してる?まさか。
お腹に手を当てながら、彼女はそこを目指した。
向島貴司は、目の前にふんぞり返ったおっさんと、ようやく向かい合えていた。
「うちのアメちゃん、セラギネラサイアメンシスの妖変異体を、直接監視兼回収に向かわせたんですがねえ」
「力を増しまくっているな。あいつは、前から田所も言っていた。ある一定周期で、木気の妖魅が一斉に活性化するって話だ。ってことは、今頃未曾有の大繁殖期だ。杉だ檜だブタクサだってレベルで、花粉を飛ばしまくってるだろう。お前んところのシダっ娘とやらは平気か?」
一応まあ。鹿島灘の房中術って、有名ですからね。
そこを目指して、おテムは家の廊下を進んだ。
明かりのないリビングから、
好き♡好き♡好き♡丈一好き♡と言うジュラ美の声が聞こえてきた。
私を孕ませておきながら、ジュラ美さんまで。
扉で遮られているが、ベイダリアナとおラビさんまで。
奥の部屋の、秘密の水槽に到達し、そこで、おコデさんの姿を認めた。
「おテムさん?貴女の見たいものが、ここにあります」
おテムの血が凍りついた。
覆いで隠された、その水槽の中を確認し、おテムは、小さく呟いた。
「これはーー貴女が」
「さあ?あの人は待っています。貴女はもう、ご存知のはずですよ?」
そうか。彼がそうなった訳。私が生まれた訳。全てが繋がった。
「貴女ね?彼を、こんな風にしたのは」
おテムの視線の先には、見たことのない株と、今しがた受粉した、テムユクの雌株があった。
どうしましょう。貴方。
「そう。もうすぐ、あの女はやってくる。貴女のすることは、明らかですね?」
「貴女が、彼を、彼の父親を」
殺したのね。
それに応えるように、コーデックスに、赤い、血のように赤い、花が咲いていた。
以下続刊
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