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ベゴっ娘
幻妖なるアルラウネ
朝目が覚めて、売れない小説家、鹿島灘丈一は、
「お早うございます」
無表情で顔を覗き込む、けったいな女の目を見ていた。
「テムユク1は1.2ミリ葉が伸びています。テムユク2は、根が3ミリ伸びています。テムユク3は、新しいドリル葉が顔を出しています。葉挿しをしてみてはいかがでしょう?」
ズラズラと、育ていた原種ベゴニアの育成状況を伝えてきた。
「ジュラウはついに嵩高が10センチを越えました。切り戻さないと取り返しがつかなくなるでしょう」
「エアレーションの効果か?」
実は気にしていたことがあった。
水槽管理の植物の育成に、エアレーションを用いた場合、普通よりも早く成長すると言う話だった。
猫床にエアレーション、ハマったのかな?
「ええ。羨ましいほどいい環境です」
本人が言うのだから間違いはないだろう。
「そうか。お前にも導入してみよう。それで、お前の育成状況を教えろ。謎コーデックス、お前はそもそも何だ?」
イライラして言った。
こいつ、他の植物は葉っぱが何ミリ広がったとか、根が何ミリ伸びたとか、事細かに言うくせに、いざ自分がどのくらい伸びたのかを聞くと、
「おい」
いつものようにそっぽを向いて、下手な口笛を吹いていた。
「おい!おコデ!ちゃんと教えろ!」
長い黒髪に、白い割烹着を着た着物の女は、
「はい。何でしょう?」
ふざけた返答をしやがった。
「だから!お前は何なんだ?!名前を言え!」
「聞き取れませんでした。もう一度やり直してください」
「いつになったら芽が出るんだお前は?!おい!」
「聞き取れませんでした。もう一度やり直してください」
「うおおおおおおおい?!お前えええええええええ!」
「私のことはどうでもいいじゃありませんか。ああ、既に全部葉水はしておきました」
「だからさあ!観葉植物だぞ?!観葉しながら葉水やったりチェックしたりさあ!それしなかったら何の為の観葉植物だ?!俺の楽しみを奪うな!」
腹立たしそうに植物室の扉を開けると、
「パパあああああああああ!ぱぱ!」
3人の幼女に抱きつかれた。
「ああ。お早う」
背中をポンポンと叩いた。
柔らかい、温もりを感じた。
「お早うございます。ご主人様」
目が覚めるような、髪に青いラインが美しい娘が、丈一に頭を下げた。
テムユクのおテム以下、3人の子供達。
部屋の隅で膝を抱えた、緑に銀色ぶちのジムファイファーカラーの髪の長身の娘。
他にもまだまだいる。
いつの間にか、ファンシーなリビング風に改装された部屋には、多種多様な原種ベゴニアが、ラックの棚に並んでいた。
原種ベゴニアを擬人化。アホみないな力を持った鹿島灘丈一の視線の先、LEDライトの1番近い好位置の、最高の場所に置かれた、バスケットボール大の、大きなコーデックスが置かれていた。
ホントに何なんだお前は?
件のコーデックスのおコデは、原種ベゴニア娘ーーベゴっ娘に囲まれて、表情の伺い知れない顔で、丈一を見つめていた。
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