ヒトクイ

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 本音を言えば、怪物だなんて怖がられるのは心外だ。だって僕は一度たりとも命を殺めた事は無いんだから。僕が食べるのは決まって、命の尽きた体だけだ。僕でも命の尊さは知っている。  僕だって、風に揺られる花々を見て微笑む。  僕だって、太く大きい木を見て圧倒される。  僕だって、新しい命に涙する。  こんな僕だけど、人間はどうやら「人の肉を食べる」と言う行為に多大な嫌悪感を覚えるらしい。それが何故かは、ヒトでない僕にはきっと一生わからないんだろう。  僕には親がいない。  いや、きっといたのだろう。でないと僕と言う生物がこの世に生まれ落ちる事は無かったはずだ。  でも、物心ついた時には既に一人ぼっちだった。僕はずっと、一人で生きて来た。  どうして生きているんだろうとか、何で生まれたんだろうとか、そんなことを考えるのは遠に辞めた。考えたって答えは出ないし、死ぬ予定もないのに答えを見出そうとすれば疲れ果てるだけだ。  そう思った日から、僕はただぼうっと毎日を生きて来た。何も考えず、ただ人を避け、命を繋ぐための食事をし、睡眠をとる。それ以外にする事は、特にない。
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