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『神奈川県が自殺禁止区域に指定されてから1年が経ちました。昨日の自殺者も0人。これで自殺禁止区域では1年連続で自殺者が出ていないことになります』
「自殺者0人って本当かよ。オレには信じられないなー。シロ、お前もそう思うだろ?」
「ナー、ナー」
「はいはい、シロはそんなことよりもご飯が食べたいってか」
オレは台所から持ってきていた猫缶の封を開けてそっとベランダに置いた。
その様子を近くで見ていたシロが待ってましたとばかりに飛びついた。
毎日決まった時刻に報道される自殺禁止区域の自殺者数。
ある時からこの時間帯に合わせてシロがベランダに顔を出すようになった。
今では数少ないオレの話し相手だ。
「聞いてくれよ。今日から大学の2学期が始まるんだけど、また退屈な日々が始まると思うとどうもやる気が起きなくてさ。毎日同じことの繰り返しで、オレって何のために生きてるのかなって考えちゃうんだよ」
「ナー」
シロが猫缶から顔を上げて優しく鳴いた。
空っぽになった猫缶を見るに「おかわり」か「ご馳走さま」とでも言ったに違いない。
オレの話は難しくて猫には理解できないだろう。
シロはオレの顔を1度マジマジと観察するように見た後、どこかに走って行った。
さて、オレも大学に行くとするか。
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