第8話 三毛猫・メイル

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 うっ、こんな時に頭痛が。耳鳴りも酷い。 (オレは何の為に生きてるんだ? こんなクソみたいな世界で。あいつもこいつも何を考えているのか分からない。もう疲れた。誰か、誰か助けてくれよ)  私の耳にはっきりと助けを求める心の叫びが聞こえてきた。  物凄く近くで誰かがSOSを出している。  でも、申し訳ないけど今はそれどころではない。 「リヴ様! 後ろ!!」  メイルが血を吐きながら声を張り上げた。 「えっ?」  振り返ると、メイルが言っていた箱型の乗り物、車がすぐそこまで迫っていた。  時間を止める能力を使えばギリギリ間に合うかもしれない。  そうだ。メイルの怪我も時間を巻き戻して車に轢かれる前に戻っていれば解決できたじゃないか。  気が動転していてそこまで頭が回らなかった。 「時間固定(タイム・ロック)!」  手を車にかざして能力を発動させようと試みたが、車が止まる事はなかった。 「何で?」  精神が乱れていたことが原因で能力が不発に終わってしまったみたいだ。  目の前に車が迫り、両手で顔を覆う。  次の瞬間、私の体に強い衝撃が走った。 「あっぶねーな。大丈夫か?」 (今の轢かれてたら死ねてたかな?)  10代後半と思われる少年が手を差し出して立たせてくれた。  どうやら私と車がぶつかる寸前にこの少年が飛び込んで助けてくれたようだ。 「は、はい。ありがとうございます」 「猫が轢かれたのを心配してたのか。近くに動物病院があるからそこで診てもらおう」 (成り行きとはいえ、自殺を考えてる奴が他人の命を助けるなんておかしいよな)  少年はメイルを抱き抱えると、急ぎ足で歩き出した。 「あ、あの、お名前を聞いてもいいですか?」 「ああ、オレは——」  川端直斗(かわばたなおと)。  それが私の命を救ってくれた恩人の名前だった。  その日以降、私は白猫のシロとして直斗の家に通うようになる。  直斗が抱える悩みの正体を知る為に。  命の恩人を死なせる訳にはいかないから。
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