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「ねえ直斗、もうあれから1ヶ月が経つんだね」
「そうだな。あっという間だったな」
店内に広がるコーヒーの香り。
オレと愛梨沙は喫茶店に来ていた。
1ヶ月もあれば生活は大きく変わるもので愛梨沙は大学を辞めた。
今はこの喫茶店でアルバイトをしながら自分のやりたいことを探している。
一方のオレはというと、あの日リヴから全てを聞いた上で2人の手伝いをすることに決めた。
自殺志願者の気持ちは自殺経験者にしか分からない。
ある意味オレより適任者はいないだろう。
2回も死んだことのある人間なんてどこを探してもいないはずだからな。
人は何の為に生きているのだろう。
『子孫を繁栄させる為に』なんて言葉を聞いたことがあるが、オレはその言葉にピンと来なかった。
オレがいなくなった後の世界のことなんてどうでもいい。
そりゃ自分のことを誰かに忘れられたら寂しいし、悲しいと思うけど。だからと言ってオレ自身がどうこうできる訳でもない。
愛梨沙と向き合って、リヴとバベルと関わるようになって何となくその答えが分かった気がする。
人は何の為に生きているのか。
それは守りたいモノ、譲れないモノを守る為に生きているのではないだろうか。
ここ数ヶ月でオレにも守りたいモノができた。
愛梨沙、リヴ、バベル。
かけがえのない仲間の為に今日も1日生きていく。
ふと窓越しに空を見上げると端から端まで飛行機雲が立っていた。
明日は雨が降りそうだ。
「やっぱりここにいた!」
店内の涼しげなBGMを遮る騒がしい少女の声。
白髪の少女はオレと愛梨沙が座る席まで駆け足で来ると、有無を言わせぬ勢いでオレの腕を引っ張った。
「新しい声が聞こえたから一緒に来て。バベル、飛ぶよ!」
「はい、リヴ様」
バベルがオレとリヴの手を握る。
「直斗、行ってらっしゃい」
すっかりこのやり取りにも慣れたのか愛梨沙が笑顔で手を振る。
さらばオレの平凡の日常。ようこそ慌ただしい毎日。
「行ってきます!」
自殺禁止区域、完結。
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