あなたが笑うから

入学

「バスケ部、見に行く」
「長谷っ!?ちょっ!!待て待てっ!!」

　入学式を終えて、うちのクラスの前で待っていた下野にとりあえず言って歩き出すと、下野に慌てて腕を掴まれる。
　待つなんて無理だ。
　もし、彼女が居なかったら……俺って一体。
　考えるだけでじっとなんてしていられない。

「マジ、待てって！今日は午前中入学式で部活あったとしても午後からだって！先輩たちなんてまだ来てねぇよ」

　グッと体重をかけながら引っ張られて、さすがに足を止めた。
　午後から……そこまで待っていたらダメだろうか。一目でいいから会いたい。

「ほら、長谷、帰るぞ」

　居ないと聞いても何となく体育館のある方から目が離せなかった。
　クルッと俺の背中に回って腰の辺りを押して進もうとする下野から逃れて体育館に向かって走り出す。

「おいっ！」

　下野の声は聞こえるがじっとなんてしていられなかった。

　さっきまでの入学式の雰囲気とは変わって、イスも赤と白の幕もなくなった体育館。
　ここであの先輩は笑ってる……。
　そんな幻が見える気がして、何とか落ち着こうとブレザーの上から心臓を握った。

「長谷！お前、本当どーしたんだよ！そんなバスケに燃えてたっけ？」

　追いかけてきた下野が下から見上げてくる。
　それでも俺は特に反応はしないで、ただの体育館になったその床を見つめた。