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「わっ!」
「ああっ! すみません」
曲がり角であやうく右手から走ってきた人と衝突しそうになりヒヤリ。と思えば後ろからきた人が俺を追い越し軽やかに走り去ってゆく。
一瞬立ち止まり落ち着いて見渡せば、なんと行き交う人みな走っている、歩行している人が一人もいないのだ。
子どもが走る、まあ普通。主婦が走る、スーパーの特売でもあるのかもしれんな。スーツ男が走る、取引先に急ぐのかも? 婆さんも走る、いや、ヨロヨロしちゃってそれあぶないでしょう。猫も走る、獲物を求めて? 男が走る女が走る少年が走る中年が走る高齢者が走る動物が走る生きとし生けるものみな走る、走る、走る、走る!
最初はそれぞれがバラバラに各々の目的のため走っているように見えたが、気がついたらいつのまにか全員が同じ方を向いて走っている。するとおかしなもんで、俺みたいに目標なんてないはずの人間までなぜだか焦りが出て、後ろから来るやつに抜かされてたまるか、前のやつより速く! とガムシャラな気持ちになって俄然ハリキッテ run run run。すると周囲の負けじ魂にも火がついたようでペースは否が応でも上がっていく。スーツ男はブリーフケースを投げ捨て主婦はエコバッグを投げ捨て子どもは虫かごを投げ捨て婆さんは杖を投げ捨て、とにかくみな少しでも身軽になってスピードを上げようと必死。ハナっから手ぶらで失うものなど何もない俺は気楽に一歩リード。
「がんばって〜!」
「その調子その調子」
「行け行け!」
沿道いっぱいの見物人たちからワアワア言う声援が飛んでくる。
「そのままそのまま、」
「おいスピード落とすなよ」
「何やってんだよ〜」
「よーしっ来るぞ最後のコーナー」
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