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ぴしりっ! 痛いっ! 尻に激痛が走る。あろうことか、何者かが俺の背に乗り鞭をふるっているではないか! ぴしりっぴしっ! ぴしりっぴしっ! な、なんなんだ一体! 俺はいたってノーマルな男なんだから、ソッチの趣味はないんだってば!
ブフーブフーと鼻から荒い息を吐きながらそれでも俺は最後の力を振り絞るようにして走る。走る。走る。走る。周りのやつらの荒々しい鼻息とよだれが飛んでくる。くそう負けてなるものかっ俺は由緒正しい血統を持つサラブレッドなんだっ!
「きたきたきた」
「うおー伸びてる伸びてる」
「いけっ! いったれ!」
「ぐぉおおおおお」
「どっちだこれどっち!?」
俺は隣のやつと激しいデッドヒートを繰り広げる。視界の端に茶色いフサフサがゆれている、意識を集中してみるとそれは、隣の藤田さんであった。ああ、やっぱりな。同じ厩舎の俺たちは永遠のライバルってわけだ。グレーの毛を持つ芦毛の俺とつやつやしたブラウンの栗毛藤田さん。両者一歩も譲らずゴールに差し掛かりそして……走りきった! 果たして運命の勝敗は……
「マアマアイケテルとった〜!」
「うおーマアマアイケテル、大穴なんじゃね?」
「マアマアイケテル、単勝のオッズどうなんの? ヤバいこれぜったいヤバいわ」
俺様、マアマアイケテルの勝利! やったぜベイベー俺の背中で非情な鞭さばきだった人も今では俺の頭をよくやったイイコイイコと撫でてくれる。ふ〜やれやれやっと勝ったぜい。
にしても、馬名に「マアマアイケテル」って。なにこのネーミングセンス、どうにかならんかね。
(おしまい)
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